健康コラム

#10 嚥下障害(えんげしょうがい)

「最近むせやすい」はサインかもしれません


~ オーラルフレイルと嚥下障害を早めに考える ~

「お茶でむせることが増えた」
「食事に時間がかかるようになった」
「硬いものを避けるようになった」
こうした変化は年齢のせいだけでなく、お口や飲み込み(嚥下)の力が弱くなってきているサインかもしれません。
このようなささいなお口の衰えをオーラルフレイル(お口の衰え)と呼びます。
これは、嚥下障害の〝はじまりのサイン〟ともいえる大切な段階です。

オーラルフレイルは早期対応が大切です

この時期であれば、

  • 食べ方を工夫する
  • お口の体操や訓練を行う
  • 歯や入れ歯を整える

といった対応によって、進行を防いだり、改善できる可能性があります。
特に、歯の本数が減る、入れ歯が合わない、噛む力が弱くなるといった問題は、「食べる力」に大きく影響します。歯科での治療や調整はとても重要です。気づかないまま過ごしてしまうと、徐々に「食べにくい」「むせる」「食べられない」へと進行し、誤嚥(ごえん)や誤嚥性肺炎のリスクが高まります。
近年では、飲み込みの力は喉だけではなく、全身の筋力や活動量とも深く関係していることがわかってきました。歩く力や立ち上がる力が低下すると、嚥下機能も弱くなることがあります。

「食事中によくむせる」
「咳や痰が増えた」
「食事量が減り、体重が落ちてきた」

このような変化がある場合は、かかりつけの先生にぜひご相談ください。
飲み込みの問題は、進行してから対応するよりも、早い段階で気づいて対策することがとても重要です。
脳卒中やパーキンソン病、認知症などの病気だけでなく、骨折や手術後などの長期臥床をきっかけに体力が落ち、飲み込みの力が弱くなることも少なくありません。
「もう口から食べるのは難しい」と判断されてしまうこともありますが、適切な評価と工夫によって、再び安全に食べられる可能性がある方もいらっしゃいます。

飲み込みを〝見える化〟する検査

当院では「嚥下内視鏡検査(えんげないしきょうけんさ)」を行っています。細いカメラを鼻から挿入し、

  • 食べ物がどのように喉を通るか
  • むせの原因は何か
  • どの姿勢や食形態なら安全か

を直接観察します。
検査の様子はモニターで確認できるため、ご本人やご家族にも一緒に見ていただきながら説明しています。状態を〝見える化〟することで、なぜ食事形態の調整が必要なのか、どのような工夫が有効なのかを具体的に共有できます。

多職種チームで支える「食べる力」

飲み込みの問題には、多くの専門職が関わります。

  • 医師:病気や全身状態の評価と治療方針の決定
  • 看護師:日常生活の観察とケア
  • 言語聴覚士:嚥下評価とリハビリテーション
  • 理学療法士:歩行や下肢筋力の改善、姿勢の安定化
  • 作業療法士:食事動作や生活動作の訓練
  • 管理栄養士:栄養状態の評価と食事内容の調整
  • 薬剤師:薬の飲みこみやすさの調整や剤形変更の提案
  • 歯科衛生士:専門的口腔ケアと口腔機能の評価を行い、誤嚥性肺炎の予防や経口摂取の再開を支援

飲み込みの力は、喉だけの問題ではありません。
姿勢が安定すること、体幹や下肢の筋力が保たれることが、安全な嚥下につながります。
それぞれが連携し、「どうすれば安全に口から食べられるか」を考えます。

例えば、誤嚥性肺炎を繰り返し胃瘻を造設された80歳代の女性は、姿勢を工夫することで、バナナやお饅頭を安全に食べることができました。
また、新型コロナ感染後にむせが増えた70歳代男性は、一口量を減らし、顎を引いて飲み込むことと、水分にとろみをつけることで改善しました。
少しの工夫が、「食べられる」を取り戻すことにつながることがあります。

施設によっては言語聴覚士が常駐していない場合もあります。
そのような場合でも、理学療法士や作業療法士による全身機能の維持・改善が、嚥下機能の維持に重要な役割を果たします。必要に応じて専門的評価を行い、地域で連携しながら支援します。
当院に歯科はありませんが、常勤の歯科衛生士が入院中から口腔管理に関わり、必要に応じて地域の歯科医院と連携しています。

「食べる」か「食べない」か、二者択一ではありません

飲み込みが悪くなると、栄養不良や体力低下を招き、生活の質や生命予後に影響します。
私たちは

  • 姿勢や食べ方を工夫する
  • 食事の形を変える(やわらかくする、とろみをつけるなど)
  • 訓練で機能を改善する
  • 必要に応じて別の栄養方法を組み合わせる

など、一人ひとりの状態に合わせた方法を提案します。
大切なのは、「安全性」と「食べる喜び」のバランスです。

本人、家族も「チームの一員」

治療方針は医療者だけで決めるものではありません。

  • 検査結果を共有する
  • 食事の様子を一緒に確認する
  • 大切にしたい価値観(食べる楽しみ、安心、安全など)を話し合う

こうした対話を重ねながら、その方にとって納得できる選択を一緒に考えます。
話し合いは一度きりでなく、状態の変化に応じて続いていきます。

最後に

「食べること」は、栄養をとる行為であると同時に、生きがいや楽しみそのものです。
むせや食べにくさは、体からの大切なサインです。もし気になる症状があれば、どうぞお早めにご相談ください。
地域のかかりつけの先生方や歯科医院とも連携しながら、「その人らしく、安全に食べ続ける」ことを支えていきます。

解説:中村 由紀子(なかむら ゆきこ)(消化器内科診療部長)

【資  格】

  • 日本内科学会〔総合内科専門医・認定内科医・指導医・評議員〕
  • 日本消化器病学会〔消化器病専門医〕
  • 日本消化器内視鏡学会〔消化器内視鏡専門医〕
  • 日本人間ドック学会〔健診専門医・指導医・認定医〕
  • 日本摂食嚥下リハビリテーション学会〔認定士〕
  • 日本静脈経腸栄養学会〔TNT〕
  • 東北フレイル研究会〔世話人〕

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※ 所属・役職・資格等は公開当時のものです。異動・退職等により変わる場合もありますので、ご了承ください。

掲載日:2026年07月22日