健康コラム
# 8 乳がん(にゅうがん)予防・検診とブレスト・アウェアネス
はじめに
本邦において乳がん罹患者は年々増加傾向にあり、乳がんの心配をされている方も多いと思います。本コラムでは、おすすめされる予防、検診、ブレスト・アウェアネスについてお話します。
乳がん予防
日本人を対象とした研究では、がん全般の予防には禁煙すること、飲酒をひかえること、バランスのよい食事をとること、活発に身体を動かすこと、適正な体形を維持すること、感染を予防することが有効であることが分かっています。中でも乳がんを予防するためには、飲酒を控え、閉経後の肥満を避けるために体重を管理し、適度な運動を行うことがよいと考えられています。ストレスや本人の性格は乳がん発症との関連は薄いとされています。
乳がん検診
がん検診の目的は、がんを早期発見し、適切な治療を行うことで、がんによる死亡を減少させることです。乳がん検診は、国の政策として市町村が提供する「対策型乳がん検診(住民検診)」と、それ以外の個人の価値観と自己責任で自費で受診する「任意型乳がん検診(人間ドック、職域検診など)」に大別されます。
対策型乳がん検診(住民検診)の最大の目的は乳がんによる死亡率を低減することです。がん検診には利益と不利益があります。がんで亡くなることを防ぐためには、がん死亡を減らす効果が確実で、かつ、利益が不利益を上まわる検診を受けることが大切です。国は、これらの要件を満たすことが科学的に認められた検診の受診を推奨しています。現在、この乳がん死亡率減少効果が明らかな検査方法は、検診マンモグラフィだけです。乳がん検診は40歳以上の方を対象に、2年に1回のマンモグラフィが推奨されます。これは、科学的な根拠をともない、精度管理がされていることにより、国や自治体の補助があります。それ以外の検査はがんで亡くなることを防ぐ科学的根拠が不明、または現在検討中で結論が出ていないため、国は推奨していません。そのため、国や自治体の補助はありません。 がんは1回の検診で見つからないこともありますので、適切な間隔で検診を繰り返し受けることが大事です。前回のがん検診で「がんの疑いなし(精密検査不要)」となっても、次回の検診を受けるまでの間に急に大きくなるがんもあります。何か気になる症状があらわれた場合は、次回の検診を待たず、すぐに医療機関を受診してください。がん検診はがんの症状が出ないうちに受けることに意義があります。症状が出る前の早期に発見することが期待されます。自覚症状がある方は、がん検診ではなく、医療機関で受診して、診断のための適切な検査を受けてください。
職場によっては定期健康診断等に人間ドックが付加され、オプション項目として、高性能の検査機器や最先端の技術(CT、PET、腫瘍マーカーなど)を使った検査が選べるようになっています。これらはがんの再発や転移を調べるための検査としては大変重要ですが、がん検診としての効果(がん死亡を減らす効果が確実、かつ、利益が不利益を上まわる)は認められていません。しかしながら、費用の多寡や効果の科学的な裏付けがあるかということよりも、検診で異常なしといわれることで精神的な安定につながる場合もあるかと思います。
ブレスト・アウェアネス
日常生活においては,日頃から自分の乳房に関心を向ける生活習慣「ブレスト・アウェアネス」の実践を心がけることが推奨されています。
ブレスト・アウェアネスは、乳房を意識する生活習慣です。具体的には、日ごろの生活の中で次の4つを行いましょう。
2. 乳房の変化に気をつける
3. 変化に気づいたらすぐ医師に相談する
4. 40 歳になったら2年に1回乳がん検診を受ける
入浴やシャワーの時、着替えの時、ちょっとした機会に自分の乳房を見て、触って、感じてみましょう。入浴の際に、石鹸を付けて撫で洗いするのもいいでしょう。普段の自分の乳房の状態を知ることで、初めて、変化に気が付けます。「いつもと変わりがないかな」という気持ちで取り組みましょう。変化として注意するポイントは乳房のしこり、乳房の皮膚のくぼみや引きつれ、乳頭からの分泌物、乳頭や乳輪のびらんなどです。しこりや引きつれなどの変化に気付いたら、大丈夫だろうと安易に自己判断することなく専門医の診察を受けましょう。
参考文献
乳癌診療ガイドライン2022年版
患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版
厚生労働省 がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針(令和6年2月14日一部改正)
国立がん研究センター がん情報サービス
解説:柴田 健一(しばた けんいち)(外科診療副部長)
【資 格】
- 日本外科学会〔外科専門医・指導医〕
- 日本乳癌学会〔乳腺専門医・乳腺指導医〕
- 日本消化器病学会〔消化器病専門医〕
- 日本消化器外科学会〔消化器外科専門医〕
- 日本がん治療認定医機構〔がん治療認定医〕
- 日本医師会〔認定産業医〕
※ 所属・役職・資格等は公開当時のものです。異動・退職等により変わる場合もありますので、ご了承ください。
掲載日:2025年06月24日