健康コラム

#6 膠原病(こうげんびょう)について

膠原病とはどんな病気ですか。

 膠原病は1つの病気ではなく、多くの疾患を含んでいます。
 代表的なものとしては、関節に炎症が起き、関節痛や変形を来す関節リウマチ、皮膚や内臓など様々な臓器を冒す全身性エリテマトーデス、皮膚が硬くなる強皮症、筋力が低下する多発性筋炎、唾液や涙の量が減るシェーグレン症候群などがあります。最近有名歌手が膠原病に伴う肺の病気で亡くなられたというニュースがありましたが、近年治療の進歩により、多くの患者さんが病気を上手にコントロールし通常と変わらない生活ができるようになってきています。

 膠原病に共通する特徴として、以下の3つの点があげられます。

①自己免疫疾患であること、
②結合組織疾患であること、
③リウマチ性疾患であること

 人間はばい菌やウイルスなど自分以外のものを異物と見なし排除しようとする働きを持っています。これを免疫と言いますが、自己免疫疾患は間違って自分の体を異物とみなし、それを攻撃する蛋白質(自己抗体)やリンパ球(白血球の一種)を作ってしまう病気です。
 2つめの結合組織疾患ですが、人間の体は細胞だけでできているのではなく、細胞と細胞の間をくっつけている結合組織があります。結合組織に含まれる線維状の蛋白質を膠原線維と言います。膠原病の膠原はコラーゲンといった方がおなじみかもしれません。病気の起こる場所が主に結合組織や、結合組織内を走っている血管であるものを結合組織疾患といいます。結合組織は体全体にありますので、膠原病もある特定の臓器に限局せずあちこちの臓器に異常を来すことが多いです。
 3つめのリウマチ性疾患ですが、体を動かすための運動器、すなわち関節や筋肉、骨、靱帯などに痛みを起こす病気を総称してリウマチ性疾患と呼びます。
 膠原病はこれら3つの特徴を併せ持った病気であると言えます。

膠原病の症状はどのようなものがありますか。

  • 風邪を引いたわけでもないのに熱が続く
  • あちこちの関節が痛む、こわばる
  • 筋力低下、これはいったんしゃがむと立ち上がるのが難しい、寝ている状態から頭を持ち上げるのが大変といったものです。
  • 様々な皮膚症状、代表的なものにレイノー現象(図1)があります。これは寒さに当たると、指が白くなったり紫色になったりするものです。

図1:レイノー現象(引用文献3より)

 他にもいろいろありますが、これらは膠原病以外の病気でもみられることがありますので、病院では症状だけでなく専門的な検査を組み合わせて診断しています。何か気になる症状が続く時は、一度医療機関を受診してみると良いと思います。
 次に代表的な膠原病である全身性エリテマトーデスとシェーグレン症候群について述べます。

全身性エリテマトーデスとはどんな病気ですか。

 この病気は全身性とあるように、非常に多彩な症状を起こします。発熱やだるさなどの全身症状をはじめ、皮膚や関節症状、さらには腎臓などの内臓障害も起こすことがあります。しかし一人の患者さんにこれらすべてが出るわけではなく、症状の出方は人それぞれです。
 全身性エリテマトーデスは英語名の頭文字をとってSLEとも呼ばれます。
 日本で登録されている患者数は2021年の段階で6万人あまり、医療機関を受診していない患者さんを含めると実際にはこの2倍程度はいると推定されています。
 男女比は1:9と圧倒的に女性に多く、全ての年代で発症しますが、特に20~30代がピークとされています。若い女性に多い病気と言えます。

全身性エリテマトーデスの症状にはどのようなものがありますか。

  • 皮膚症状では頬に赤い蝶のような形の皮疹(図2)ができたり、顔や手足に丸い赤い盛り上がった皮疹が出ます。その他しもやけのような皮疹や手の指が白くなるレイノー現象、脱毛なども見られます。
  • SLEで特に障害されやすい臓器は腎臓で、ループス腎炎と言います。SLE患者さんの約半数に腎障害が見られます。通常は発熱や関節痛など他の症状を伴うことが多いですが、無症状で尿検査をして初めてわかる場合もあります。障害が強いとむくんだり腎臓の働きが弱くなることがあります。
  • また神経精神ループスと言って、頭痛やうつなどの精神症状、痙攣などが現れることがあります。

図2:全身性エリテマトーデスで見られる蝶形紅斑(引用文献4より)

全身性エリテマトーデスの原因は何ですか。

 SLEでは自分の遺伝情報が書き込まれたDNAに対する抗体が作られます。自分の体の成分を標的としているので自己抗体と呼びます。抗体はDNAと結合し、それが血流に乗ってあちこちに行き渡り、皮膚や腎臓、血管などの組織にくっついて炎症を起こします。抗体の標的がばい菌やウイルスなどであれば体内からいなくなれば免疫反応は収まりますが、SLEでは標的が自分のDNAですので、いつまでもこの異常な免疫反応が続いてしまうわけです。
 なぜこのように自分のDNAに対する自己抗体ができるのかについてはまだよくわかっていません。遺伝子が全く同じである一卵性双生児の場合、一人がSLEとなった場合もう一人がSLEとなる確率は4人に1人と高頻度ですので遺伝的な要因が背景にあることは間違いないようです。それに紫外線や感染、手術、薬など環境要因が加わることで発症するのではないかと推測されています。

全身性エリテマトーデスはどのように治療をするのですか。

 炎症を抑える働きのあるステロイドホルモンを中心に、必要に応じて免疫抑制薬や血漿交換療法などを組み合わせた治療を行います。

シェーグレン症候群とはどんな病気ですか。

 シェーグレン症候群は、目や口の中が乾き、涙や唾液が出にくくなる病気です。
2011年の調査では日本に約7万人いるとされましたが、あまり症状を自覚していない方や症状があっても歳のせいだろうと思っていらっしゃる方も多いため、潜在的には10~30万人いると推定されています。患者さんの多くは40~60歳代で、圧倒的に女性に多い病気です。
 病気の原因は不明ですが、リウマチ因子や抗核抗体などの自己抗体が見られることが多いことから、他の膠原病と同様免疫異常が原因と考えられています。またシェーグレン症候群は全身性エリテマトーデスや関節リウマチなど、他の膠原病と合併することが多いのも特徴です。

シェーグレン症候群の症状はどのようなものがありますか。

 主に涙腺や唾液腺に炎症が起こり、徐々に破壊されていきます。
涙腺が壊れてしまうと、涙の分泌が減り目が乾燥します。目がごろごろする、疲れる、まぶしいなどの症状が起こりやすくなります。目の表面が乾燥することにより結膜や角膜に炎症がおこりやすくなります。
 唾液の分泌が悪くなると、口内が乾く、舌が荒れる、水がないと食事がしづらい、しゃべりにくい、のどが痛いなどの症状が起こります。他にも虫歯になりやすいといったこともあります。
 上記のような乾燥症状のみの方もいますが、腎臓や肺、皮膚症状や関節炎などを併発することもあります。

シェーグレン症候群の治療はどのようなものがありますか。

  • 涙腺や唾液腺の破壊を防ぐ薬は今のところありません。他の膠原病を合併しておらず、乾燥症状のみの場合には症状を和らげる治療が中心となります。
  • 目の乾燥に対しては点眼薬で涙が足りない分を補います。またコラーゲンやシリコンでできた詰め物で涙の排出口をふさぐという方法もあります。
  • 口の乾燥に対しては、歯磨きやうがいをしっかり行うようにします。水分を多く含んだ食物をとるなどの工夫も良いと思います。唾液を出しやすくする薬が効く場合もあります。

 いろいろな症状を起こし得ますが、生命に関わるようなものは多くなく、予後の良い病気です。

日常生活における注意点(膠原病全般に共通)

  1. 規則正しい生活を送りましょう。
    生活のリズムの崩れは免疫システムを乱します。
  2. 十分な睡眠時間を確保し、疲労をためないようにしましょう。
  3. 状態が安定しているときは、適度に体を動かしましょう。
    筋力が低下したり、関節が硬くならないよう、無理のない範囲で体を動かします。
  4. 体を冷やさないようにしましょう。
    体の冷えは血流を悪化させ、免疫力を低下させます。衣類や室温をこまめに調節しましょう。冷たい飲み物も避けた方がよいでしょう。
  5. 治療中は感染予防を心がけましょう。
    感染症そのものが膠原病を悪化させることがあります。ステロイドや免疫抑制薬を使用中は特に注意が必要です。

 今回は膠原病のうちのごく一部を紹介しました。また機会がありましたら、他の膠原病についても書きたいと思います。

引用文献
1. 三森明夫著 新版膠原病 主婦の友社
2. 難病情報センターインターネットサイト http://www.nanbyou.or.jp
3. 上野征夫著 リウマチ病診療ビジュアルテキスト第2版医学書院
4. Kelley's Textbook of Rheumatology ELSEVIER

髙﨑 聡(たかさき さとし)

【現  職】
腎臓内科 診療部長
【資  格】
日本内科学会〔総合内科専門医・認定内科医・指導医〕
日本腎臓学会〔腎臓専門医・指導医〕
日本透析医学会〔専門医〕
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