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健康コラム

#5 「下肢静脈瘤(かしじょうみゃくりゅう)の治療について」

下肢静脈瘤について

 下肢静脈瘤は、脚の皮膚の下を走る血管(表在静脈)がこぶ(瘤)のように膨らんで浮き出て、ぐねぐねと曲がった状態になる病気です。
 静脈は、脚に送られた血液を重力に逆らって、下から上に流して心臓に戻す役割を担っています。静脈の中には血液の逆流を防ぐ「弁」がついていて、立っている時に血液が足の方に戻ってしまうのを防いでいます。この弁が何らかの原因で壊れる(弁不全)と血液が足の方向へ逆流し、その下にある静脈に血液が貯まります(うっ血)。この血液が貯まった状態が何年も続くと、徐々に静脈の壁が引き延ばされ太くなり、ぐねぐねと曲がりくねってきます。汚れた血液(静脈血)が脚に溜まり、静脈の圧力が上がり炎症を起こすため様々な症状が起こります。

下肢静脈瘤の症状

 症状は脚の静脈に血液がたまるために起こるので、ほとんどの症状がふくらはぎにおこり、1日のうち午後から夕方に症状が強くなるのが特徴です。朝、起きてすぐに症状がある場合は、他の病気があることを考えなくてはいけません。
 初期の症状は、脚の血管が浮き出て見える、下肢がだるい(倦怠感)重苦しい(重苦感)、むくむ(浮腫)、夜寝ていて朝方にこむら返り(下肢痙攣)を起こす等です。病状は時間の経過とともに進行し、痒みや湿疹、色素沈着、皮膚や脂肪が固くなるなどの皮膚変化が出現してきます。最も重い症状は、皮膚が欠損する皮膚潰瘍で、ここまで進行すると治療に時間がかかります。

下肢静脈瘤の治療について

 弾性ストッキングを履いて下肢の静脈を圧迫すると、静脈瘤の進行を遅らせることができますが、根本的な治療ではありません。根本的な治療をするためには、原因となった弁不全、つまり弁の逆流を止めなければなりません。その方法としては弁不全を起こした静脈を摘出する方法と静脈を塞いで血液の逆流を防ぐ方法があります。
 静脈を摘出するための手術は、弁不全を起こした血管を引き抜く手術(ストリッピング手術)と言い、様々な工夫を凝らしながら2010年前後までは主流の手術として行われていました。体への負担が決して小さくない(低侵襲でない)方法であるため、2011年に血管内レーザー焼灼術が保険認可されてから、より低侵襲な静脈を塞いで逆流を防ぐ方法が主流になっています。

最近の下肢静脈瘤治療

 弁不全を起こした静脈を塞ぐ方法は、血管を内側から焼いて塞ぐ方法と血管を医療用接着剤で塞ぐ方法があります。血管を内側から焼いて塞ぐ方法を「血管内焼灼術」と言い、血管を接着剤で塞ぐ方法を「血管内塞栓術」と言います。

血管内焼灼術

 血管内焼灼術は、弁不全を起こした静脈に細い管(カテーテル)を通して焼いて塞ぐ治療です。レーザー焼灼術とラジオ波(高周波)焼灼術があります。

①レーザー焼灼術(2011年保険認可:図1)
 TLA(低濃度大量浸潤局所麻酔)という局所麻酔を用いて手術をします。麻酔薬を焼灼する静脈に沿って複数回針を刺してから注入する必要があります。弁不全を起こした静脈にカテーテルを通して200℃前後の温度で焼灼します。通常用いる管よりも細い管(スリムファイバー)を用いることで、原因となった静脈とともに静脈瘤を形成している静脈も焼灼(分枝焼灼)できる場合があります。

②ラジオ波焼灼術(2014年保険認可:図2)
 レーザー焼灼術と同様にTLA麻酔を用います。弁不全を起こした静脈にカテーテルを通して、120℃の温度で焼灼します。静脈瘤に対する処置はスタブアバルジョン(小切開静脈瘤摘出)で行います。
 ラジオ波焼灼で用いるカテーテルは、レーザー焼灼で用いるカテーテルより若干太く、焼灼温度はラジオ波焼灼のほうが低くなっています。

血管内塞栓術(2019年12月保険認可:VenaSeal図3)

 下肢静脈専用に開発された医療用接着剤(シアノアクリレート)をカテーテルで弁不全を起こした静脈に注入して血管を接着して閉塞します。血管内焼灼術の様に熱を伴う治療ではないため、やけどや神経障害などの周辺組織への影響が少なく、TLA麻酔が不要なため針を刺す回数が減るので、現在行っている治療法の中で一番低侵襲な治療となります。血管内に接着剤を注入するので、シアノアクリレートに対するアレルギーやアレルギー体質の方には治療を行っていません。静脈瘤を形成している静脈に対して後日外来で硬化療法が必要になる場合があります。

山形済生病院での下肢静脈瘤の治療

 当院では血管内焼灼術のレーザー焼灼術とラジオ波焼灼術、VenaSealによる血管内塞栓術の全ての治療法を行っています。血管内焼灼術は2泊3日の入院で、血管内塞栓術は1泊2日の入院で行なっております。
 どの治療を選択するかは、病気の重症度ではなく、原因となる血管の太さや状態、部位、アレルギー体質の有無および患者さんの希望により決まります。治療をご希望の方は担当診療医とよく相談して納得のいく治療法を選択することをお勧めします。

廣岡 茂樹(ひろおか しげき)

現  職 副院長
資  格 日本外科学会〔専門医・指導医・認定医〕
三学会構成心臓血管外科専門医認定機構〔心臓血管外科専門医・心臓血管外科修練指導者〕
日本静脈学会〔評議員・弾性ストッキング、圧力療法コンダクター〕
血管内レーザー焼灼術実施・管理委員会〔指導医・実施医〕
日本病院会〔医療安全管理者〕
日本リンパ浮腫学会〔保険診療医
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