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健康コラム

#2 「腹腔鏡手術(ふくくうきょうしゅじゅつ)についての話」

腹腔鏡手術って?

お腹の手術というとみなさんはお腹をメスで切り開く手術をまず想像するのではないでしょうか。それを開腹手術といいますが、腹腔鏡手術は開腹手術にくらべ、傷が小さく、身体への負担が少なく、機能が温存され、整容性にもすぐれている治療として開発され発展してきた手術です。
まずは具体的な例を一番多く施行されている胆のう摘出術に関して説明します。 イラスト1.png

胆のう摘出はほとんどが胆のう結石症に対して行われ、図の胆石の入った胆のうという袋状の臓器を取り出す手術です。
その昔(といっても約30年前くらいですが)はおへそより上のお腹の真ん中や右の肋骨の下を比較的大きく切開して、胆のうを摘出していました。
腹腔鏡手術は絵のように

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  1. おへそを切開して直径5-12mmの筒(トラカールという)を入れ、そこから二酸化炭素を抽入してお腹の中に空間をつくり、腹腔鏡という棒状のカメラをさしこんで、お腹のなかの状況をテレビモニターに映し出します。現在のモニターは大型の4Kのハイビジョンで、場合によっては3D画面であり、非常にくっきりとした画像が映し出されます。
  2. それから他の部位に数か所直径5mmのトラカールを挿入して、細長い道具を使いながら胆のう管という部分で切って、くっついている肝臓からはがして
  3. おへそから胆のうを取り出すという手術です。

絵は開腹手術と腹腔鏡手術の一週間後の比較(少し大げさな絵ですが)で腹腔鏡手術は多くの場合非常に回復が早いのです。当院では術後2-3日で退院ですが、日帰り手術や翌日退院をしている病院もあります。
腹腔鏡手術とはこのようにお腹に細いトラカール(3mm-12mm)を数か所(1-5個)挿入し、腹腔鏡で内臓を観察しながら、長細い鉗子やはさみや凝固切開装置などといった道具を使って行う手術です。最近では胃や大腸などの消化管手術や鼠径ヘルニア(脱腸)の手術も多くされるようになりました。

傷あとは写真のようになります。

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    腹腔鏡手術の長所は(開腹手術にくらべ)
  • 画質のよいモニターに内臓の様子が映し出されるので、詳しく観察でき、肉眼より精密な手術ができます。さらに、お腹をふくらませている圧により静脈性の出血が抑えられて、出血量が少なくなります。
  • 傷が小さく分散されるので痛みが少なく、身体に対する負担の少ないので、手術後の回復が早く、早期の社会復帰が可能となります。
  • 傷が小さいので美容上も開腹手術に比べてすぐれています。
  • 傷が小さく、手術部位以外の内臓にふれる機会も少ないので、手術後に起こる癒着も少ないといわれています(術後の癒着性の腸閉塞の可能性が少なくなります)。
    逆に留意点として
  • 技術的には難しい場合がある。
  • 手術既往や強い炎症があるとき、内臓脂肪が極端に多い場合は逆に危険な場合があり、開腹手術に移行することがある。
  • 時間がかかることもある。
  • 触覚がない、視野以外の内臓の様子がわからないことがある。
  • などです。
腹腔鏡手術の動向

この腹腔鏡手術は日本では1990年に初めて胆嚢摘出術が成功し、1992年に健康保険適応となった手術です。その後患者さんにやさしい手術ということで、道具や装置の進化、知識や臨床研究の蓄積があり、いろいろな腹部外科の手術で保険適応となり行われるようになりました。

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グラフは日本の2019年までの腹腔鏡手術の件数ですが、右肩上がりに増えてきています。
胆のう摘出は腹腔鏡手術の中ではあまり難しくなく、合併症も少ないです。しかし、大腸(癌)の手術や胃(癌)の手術となるとさらに高度な手技と知識が必要になってきます。それでも、腹腔鏡手術が毎年右肩上がりに増えているのは、腹腔鏡手術で施行できれば開腹手術にくらべ患者さんが恩恵を得られると考えられているからです。そのために腹腔鏡手術に携わる外科医は日々精進を重ねております。

技術認定医について

しかし、なんでも腹腔鏡手術でしていいというわけではありません。安全性が第一ですし、悪性の病気の場合は根治性が担保されていなければいけないのです。安全性に関しては現在腹腔鏡手術の健全な発展を目指している学会では外科医の手術や臨床経験を審査し、安全に上手に行っている医者を認定するという技術認定制度が設けられています。合格率が3割以下の非常に厳しい審査ですが、患者さんのために腹腔鏡外科医の技術を保とうというものです。もちろん認定医でなくても上手におこなっている先生はたくさんおられますが、腹腔鏡手術を受ける際に技術認定医がいるかどうかは安心して受けられる一つの判断材料になると思います。
当院では現在技術認定医が二人おり、安全で質の高い腹腔鏡手術を提供できると思っています。
また悪性疾患の根治性の担保に関しては技術認定医のためのガイドライン、多数の学会での科学的根拠に基づいた推奨治療に則って治療しており、根治性を絶対損ねないようにしています。

当院で可能な腹腔鏡手術
  • 腹腔鏡下胃切除(幽門側、噴門側) 胃全摘 部分切除(内視鏡合同手術)
  • 腹腔鏡下結腸切除、直腸切除
  • 腹腔鏡下胆嚢摘出
  • 腹腔鏡下総胆管切石
  • 腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術
  • 腹腔鏡下虫垂切除術
  • 腹腔鏡下膵尾部切除
  • 腹腔鏡下食道裂孔ヘルニア修復
  • 腹腔鏡下直腸脱修復術
  • 腹腔鏡下尿膜管遺残切除    など
  • これらは全ての患者さんがあてはまるわけではなく、悪性の病気はその進行度によっても適応が変わりますし、良性の疾患でもその状態により適応でない場合もあります。最近は鼠径ヘルニアに対しても、ガイドラインに従ってお勧めしており、従来の手術に比べ回復が早く、手術件数も増えています。
腹腔鏡手術のこれから

医療は日進月歩進化しています。現在は腹腔鏡手術においてロボット手術が行われるようにもなってきています。これは手術する医者は患者さんの傍らではなく離れた操作ボックスでモニターをみながら手術をするものです。まだ課題はありますが、人間のする腹腔鏡手術より有利な場面もあり、日本でも少しずつ普及しつつあります。
また、まだ実用化されていませんが、遠隔手術は約20年前に大西洋をはさんだニューヨークとフランスの間で実際に行われています。日本ではまだ実証研究中ですが、そう遠くない将来、その手術が得意な外科医が近くにいなくても、遠隔から手術してもらえる時代がくるかもしれません。

最後に

当院では手術に関して患者さんとのお話合いの時は、腹腔鏡手術を強制してはいません。お勧めする場合でも開腹手術のお話もして、長所と留意点を理解していただき納得していただいた場合に腹腔鏡手術をしております。手術に関して何か相談がありましたら、お問い合わせください。

川口 清(かわぐち きよし)

現  職 外科診療部長
資  格 日本外科学会専門医・指導医、 日本消化器外科学会専門医、
消化器がん外科治療認定医・指導医、 日本消化器病学会消化器病専門医・指導医、
日本がん治療認定医機構がん治療認定医、 日本内視鏡外科学会技術認定医

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