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健康コラム

第31話 ロコモティブシンドローム~運動器症候群(うんどうきしょうこうぐん)~

リハビリテーション部  岩田好子

日本人の健康を脅かすロコモティブシンドローム

高齢者を取り巻く状況

皆様もご存じの通り、日本は世界に類を見ない速さで高齢化が進んでいます。1950年代に5%程度だった高齢化率(全人口に対する65歳以上人口の割合)は、2005年には20.2%となり世界第1位となりました。その後も進み、2011年には23.3%となり、平均寿命、高齢化率共に世界第1位です。

さて山形県はと言いますと、高齢化率は27.6%と全国5番目に高く、平均寿命は男性79.97歳(全国9位)、女性86.28歳(28位)といった結果です。県内では高齢化率は西川町が最も高く36.2%で、ほぼ3人に1人は高齢者です。今後も少子化、人口減少化でさらに高齢化は進み、2040年には県内35市町村のうち2/3以上は4割を超えるとも言われています。高齢化が直接問題のわけではなく、高齢になり介護が必要になる事が問題なのです。2012年の県内の介護認定者数54、921人で65才人口に占める割合は18.4%と全国の16.0%よりやや高い結果です。

高齢者の健康阻害因子

健康で長生きしたいとは誰もが願うところですが、長生きしても健康でいられなくなるかもしれない因子が、3つあると言われています。内臓脂肪症候群のメタボリックシンドロームと運動器症候群のロコモティブシンドロームと認知症です。 メタボリックシンドロームは内臓器の生活習慣病ですが、ロコモティブシンドロームは運動器の生活習慣病と言われています。運動器の障害から要介護状態になったり、寝たきりになったりする危険性の高い状態をいいます。高齢者の方で介護が必要となる原因を調べた厚生労働省の統計では、関節の疾患や骨折・転倒の2つを合わせると全体の2割以上を占めています(図1)。

ロコモティブシンドロームとは

「ロコモティブシンドローム」とは比較的新しい概念で、2007年に日本整形外科学会が提唱しました。日本語で「運動器症候群」と名づけ、「ロコモ」の略称で、国民に広くこの問題を考えてもらおうとしたものです。「運動器」とは骨や関節、筋肉、神経の総称で、「ロコモティブシンドローム」とは、これらの機能低下から始まるものです。症状としては「痛み」「筋力低下」「変形」「関節の動きの制限」「バランス能力の低下」などがあげられますが、これらの症状が単独にもしくは複合して進行すると、歩行障害をきたしやがて歩けない、立ち上がれないといった状態になっていきます。現在、「ロコモ」に該当する人と予備軍を合わせると、日本に4,700万人いると推定され、なんと3人に1人が「ロコモ」状態です。

ロコモチェック

「ロコモ」予防には、自分の体の状態を把握することが重要です。「寝たきり予防のために運動をしよう!」と思い立っても、筋肉や骨が弱り切ってからでは始められません。体力・筋力のピークは25歳です。体力低下、筋力低下は30才代から始まっています。ここで自分の体の状態をチェックしてみましょう。 「ロコモ」チェックには7つの項目があります。50才台以上を想定したチェック項目ですが、将来そうなりうることも考えチェックしてみましょう。

1番 家の中でつまずいたり転んだりする。
2番 階段を上るのに手すりが必要である。
3番 15分くらい続けて歩けない。
30〜40才台の方は倍の30分を想定してください。
4番 横断歩道を青信号で渡りきれない。
本来、横断歩道の青信号はややゆっくり歩いても渡れるように設定されています。
5番 片足立ちで靴下がはけない。
片足立ちがつらいことはバランス能力が低下していることに繋がります。
6番 2キロ程度の買い物を持ち帰るのが困難である。
例えば1Lの牛乳パック2本分に相当します。
30〜40代の方は2倍の4キロの荷物を想定してください。
7番 家の中のやや重い仕事が困難である。
例えば布団の上げ下ろしや掃除機をかけるなどの家事動作や、小さなお子さんのいる方はお子さんの抱っこを想定してください。

以上のうち1つでも当てはまれば「ロコモ」の可能性があります。 もう少し詳しく自分の体の状態を知りたい方に、体力チェックをもう1つ紹介します。 これはNHKの朝番組でも放映されたものです。

  1. 立ち上がりテスト

    足に筋力、特にふともも(大腿四頭筋)の筋力をチェックするものです。下記のようにそれぞれの年代の合わせた高さの安定感のある椅子や台を準備します。体の前方で腕を組み、片足(または両足)で勢いをつけずに立ち上がります。バランスを崩さず立ちあがれればOKです。

    [台の高さ][台の高さ]
    <片足で立ち上がる><両足で立ち上がる>
    10代・・・10cm 60代・・・10cm
    20代・・・20cm 70代・・・20cm
    30代・・・30cm 80代・・・30cm
    40〜50代・・・40cm 90代・・・40cm
  2. 2ステップテスト

    足の筋力、バランス能力、柔軟性など総合的な歩行年齢をテストするものです。 スタートラインを決め、バランスを崩さない範囲で可能な限り大股で2歩歩きます。2歩目で両足を揃えます。スタートラインのつま先から着地地点のつま先までの2歩分の歩幅を測定します。2歩分の歩幅を身長で割り、2ステップ値を算出し、以下の表に当てはめると歩行年齢がわかります。

    [2ステップ値と歩行年齢]
    1.67以上・・・20代
    1.60〜1.66・・・30〜34歳
    1.53〜1.59・・・35〜39歳
    1.50〜1.52・・・40〜44歳
    1.47〜1.49・・・45〜49歳
    1.45〜1.46・・・50〜54歳
    1.42〜1.44・・・55〜59歳
    1.35〜1.41・・・60〜64歳
    1.27〜1.34・・・65〜69歳
    1.10〜1.26・・・70代
    1.00〜1.09・・・80代
    1.00未満 ・・・・90代
    2歩分の歩幅が200cmで身長が155cmの場合 200÷155=1.29  1.29は歩行年齢65~69歳に相当します。 自分の体力年齢は、いかがでしょうか? 
ロコモトレーニング(ロコトレ)

次に「ロコモ」を解消するために、日本整形外科学会で提唱していますロコモトレーニング(ロコトレ)を紹介します。

  1. 開眼片足立ち

    机や壁に近づき1つは目を開けて、片足立ちを左右1分間ずつ、1日3回行います。不安な方は、机に両手をつき行い、慣れたら片手だけをつく指だけをつくなどと支えを減らしていきましょう。

  2. 両足スクワット

    2つ目はスクワットです。深呼吸をするペースでゆっくり5~6回繰り返し、1日3回行いましょう。安全のために椅子やソファーの前に立ち、両足を軽く開き、腰かける要領でお尻をゆっくり下ろします。膝の負担を考え、膝の曲りは90度を超えないように、曲げた膝頭がつま先より前に出ないように、重心は後方に残し腰を下ろします。不安のある方は机に手をつき行いましょう。スクワットのできない方は、机に両手をつき、腰を浮かす動作を繰り返しても大丈夫です。自分のペースでゆっくり行ってください。

「ロコモ」の予防・対策7か条
  1. 姿勢を見直しましょう
  2. 正しい姿勢で歩きましょう
  3. 小まめに体を動かしましょう
  4. 小さな痛みも見逃さないようにしましょう
  5. バランスの取れた食事を行いましょう
  6. 自分に合った強度のスポーツを行いましょう
  7. スポーツ前後のストレッチはゆっくりと十分に行いましょう
健康で生きがいにある生活を

超高齢化に突入した日本で、人々の暮らしを揺るがしかねない「ロコモティブシンドローム」。自分の体の状態を確認し、もう一度生活パターンを見直してみましょう。ちょっとした気づきで健康は維持されます。健康で長生きし、生きがいのある人生を送りましょう。

出典
「日本整形外科学会ロコモパンフレット」
「日本整形外科学会ロコモティブシンドローム診療ガイドライン」

岩田 好子(いわた よしこ)

出身地  山形市
最終学歴 国立犀潟リハビリテーション学院 卒業
職  歴 平成2年4月 済生会山形済生病院 入職
現  職 リハビリテーション部 課長補佐
資  格 理学療法士
     介護支援専門員(ケアマネージャー)
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