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下肢血行障害を生じる他の疾患(急性動脈閉塞)

急性動脈閉塞(ALI:Acute limb ischemia)

(1)病気の概要

急性動脈閉塞は、原因は問わず放置すると肢切断に至る可能性がある下肢動脈血流の急激な減少です。発症後早期(多くの場合は6-8時間以内)に適切な診断と治療による血行再建がなされないと、下肢の筋肉や神経の不可逆的損傷により下肢の切断(大腿部など高位での切断)や神経障害による麻痺などの下肢機能を失う結果に至ります。

従って、下記の症状や身体的所見が認められた場合には、早期の受診と適切な診断ならびに加療を実施する必要があります。

(2)病因

急性動脈閉塞症の病因は大きく分けると塞栓症と血栓症に分類されます。急性動脈塞栓症は、心臓や大動脈(胸部あるいは腹部大動脈)あるいは末梢動脈瘤壁から血栓(血液の塊)や粥腫(動脈硬化性プラークが遊離したもの)が血流により下肢動脈へ飛来して動脈が閉塞する疾患です。
塞栓症の原因となる塞栓源は80%が心原性とされ、心房細動などの不整脈や弁膜症、陳旧性心筋梗塞巣に由来する心内血栓が遊離して下肢動脈閉塞に至ることが多いとされます。

一方急性動脈血栓症は、前述の閉塞性動脈硬化症(ASO)やバージャー氏病などによる下肢動脈の慢性的な狭窄病変(動脈が狭くなっている病変部位)が、脱水や心機能低下に伴う末梢循環不全、粥状動脈硬化巣(プラーク)の破裂などにより急性動脈閉塞にいたる疾患です。

いずれの病因による動脈閉塞も下肢の重症な虚血症状を引き起こしますが、塞栓症の場合には、下肢動脈の側副血行路が形成されていないことが多いため、後者に比較して非常に重症化することが多いことが知られています。

(3)診断
臨床症状

急性動脈閉塞は突然に発症する下記5個の症状を特徴として発症することが知られています。症状の頭文字より"5P "症状と呼ばれます。

5P症状

  1. 患肢の疼痛:Pain
  2. しびれ:Parensthesia
  3. チアノーゼ :Pallor
  4. 脈拍消失:Palselessness
  5. 麻痺:Paralysis

急性下肢動脈閉塞を発症すると神経、筋肉、皮膚の順に虚血性壊死が進行していきます。多くの場合、動脈閉塞から6‐8時間経過すると神経と筋肉の一部が不可逆的な壊死に陥ることが知られています。従って、6‐8時間以内に適切な加療が実施されるべきであり、特に神経症状(しびれ、知覚鈍麻)が認められた場合には、緊急での処置が必要です。

画像診断
  1. 造影CTアンギオ
    動脈の閉塞部位、閉塞機序(大動脈プラークや動脈瘤の存在、ASO所見の有無)の特定や側副血行の発達の評価のために重要な検査。一方で、筋肉壊死に関連した筋腎代謝症候群(下記)による急性腎不全を合併している場合には、造影剤の使用が制限される場合があるため禁忌となります。
  2. 心電図
    心原性塞栓症の原因となる心房細動などの不整脈の診断や、陳旧性心筋梗塞などの診断目的に施行します。
  3. 心エコー(経胸壁心エコー、経食道心エコー)
    心内血栓やもやもやエコー(不整脈や低左心機能による血液の停滞所見)などを評価するために施行します。心内血栓が残存している場合は、塞栓症(四肢、脳血管)を再発する可能性が高いため、治療方針決定のために重要な検査です。
関連疾患(合併症:筋腎代謝症候群 MNMS:Myonephropathic metabolic syndrome)

急性動脈閉塞による広範囲下肢完全虚血(大腿部を含む下肢全体など)により発症する症候群。筋肉の虚血壊死により、組織からミオグロビンやカリウム、乳酸、CKなどの代謝産物が血中に放出され、急性腎不全や多臓器不全を引き起こす重症な疾患です。血尿(ミオグロビン尿)が認められます。手術などの血行再建により、ミオグロビンやカリウムななどの代謝産物が急速に血液中に放出され、心停止に至る可能性が高いため、術中からの血液浄化療法の併施が必要になります。

(4)治療
薬物療法

MNMSや神経障害などを認めない症例においては、抗凝固療法、血栓溶解療法、血管拡張剤投与にて加療を施行し効果が得られれば継続することが可能です。

血行再建術

中枢での動脈閉塞(大動脈や腸骨動脈領域)や下肢動脈測定不能症例、知覚障害などの神経障害を呈している症例においては、緊急での血行再建が必要になります。

  • 血栓摘除術
    動脈(多くは大腿動脈)を露出してバルーン付カテーテルを動脈内に挿入し、血栓を摘除します。下肢動脈の狭窄病変が認められた場合は血管拡張術や、血栓溶解療法を併施し血行再建を行います。
  • 血栓溶解療法
    カテーテルによる血栓の吸引と血栓溶解剤の投与によるカテーテル治療。
筋膜切開術

血行再建後の下肢筋肉の虚血再還流障害により筋肉の浮腫が引き起こされます。下肢の筋肉は厚く強靭な筋膜により区画に分けられているため、区画内で筋肉が急激に浮腫に至ると区画内圧の上昇を生じ、圧によって筋肉や神経の圧迫壊死に至ります。この病態は筋区画症候群(Compartment syndrome)と呼ばれ、筋膜を切開して区画内の減圧をはかり筋肉や神経の壊死を予防する必要があります。