重要なお知らせ
新型コロナウイルスに関するお知らせ

健康コラム

第49話 「下肢血行障害(かしけっこうしょうがい)・足壊疽(あしえそ)と下肢救済療法(かしきゅうさいりょうほう)」

下肢血行障害と足潰瘍・足壊疽について

 下肢末梢動脈疾患は、動脈硬化症(下肢閉塞性動脈硬化症)やその他の原因(欠陥線・塞栓症・動脈瘤閉塞など)により腹部大動脈から下肢の動脈が慢性的に狭窄(血管の内腔が狭くなる)や閉塞に至る疾患です。特に動脈硬化症に関連して発症する場合が多く、糖尿病や慢性腎臓病、脂質代謝異常症などの基礎疾患や生活習慣の悪化(喫煙、食事の欧米化)により多く発症することが知られています。さらに、近年においては糖尿病や透析など慢性疾患の重症化や易感染性により、下肢の血行障害が急速に増悪し、その結果、小さな足の傷が潰瘍や壊疽に至る症例が多く見受けられるようになりました。

 下肢の血行障害に伴う安静時の難治性疼痛や足の潰瘍・壊疽は重症虚血肢と総称され、適切な検査・治療(血行再建と創傷処置)が実施されない場合、大腿部や下腿部での大切断に至る重篤な疾患です。いかに、重症虚血肢に関する検査の方法や治療方針などについて説明させていただきます。

下肢血行障害の診断方法
  1. 身体所見(診察)による診断
     下肢末梢動脈疾患の診断においては、体表面からの動脈の拍動触知と視診、触診(冷感や乾燥、潰瘍、壊疽)により、下肢動脈の狭窄や閉塞の概要を診断することが可能です。また足関節/上腕動脈血圧比(足関節の血圧/上腕動脈の血圧比)を測定することで、下肢虚血の重症度を評価することができます。
  2. 画像・機能的診断
    ① 血管生理検査
      ・下肢動脈エコー:エコー検査により動脈の狭窄や閉塞の有無を評価します。
      ・皮膚還流圧(SPP)・経皮酸素分圧(tuPO2):皮膚の灌流圧や皮膚組織の酸素分圧
      を測定します。重症虚血肢における創傷治癒の指標となります。
    ② 造影CTアンギオ:動脈の走行や狭窄・閉塞部位を特定します。また動脈瘤の併存や壁在
      血栓の生む、血管壁の石灰化の評価も可能であるため、血管病の診断においては非常に
      重要な検査です。
    ③ 血管造影検査(カテーテル検査):下肢動脈特に下腿動脈以下の細い血管の狭窄あるい
      は閉塞の診断と治療方針の決定のために非常に重要な検査です。

下肢救済療法について

 重症虚血肢の治療における最大の目標は下肢の救済と虚血性疼痛からの解放です。下肢救済のためには、下記の治療方針を適切に実施し、「足」という局所のみならず、全身状態、ADL、栄養状態や社会的背景などを総合的に判断し必要なサポートを実施することが必要です。

  1. 血行再建術(バイパス手術・カテーテル治療)
  2. 創傷処置(感染コントロール、創の清浄化、陰圧閉鎖療法など)
  3. 薬物療法(抗血小板剤、抗凝固療法、必要時に抗菌剤など)
  4. 栄養のサポート(低栄養や低たんぱく血症などに対する栄養管理)
  5. リハビリテーション(筋肉の維持、関節拘縮予防、ADLの維持)
  6. 社会的支援(社会的資源の活用による継続した支援、通院の支援、再発予防)

 当院では、「山形済生病院下肢救済チーム」を立ち上げ、多職種による治療とサポートがスムースに実施できるように現在、そのシステムを構築しています。(図1)

図1

 足潰瘍・足壊疽に対する下肢救済療法においては、その原因として下肢動脈の血行障害が関与しているか否かによって二分されます。下肢動脈の血行障害が足壊疽の主要因である場合には下肢血行再建が必須となります。下肢の血行再建としては、バイパス手術や血管内治療、薬物療法などがありますが、潰瘍や壊疽に陥った組織を治癒に至らしめるためには多くの血流が必要であるため、自家静脈などを用いたバイパス手術が重要な手段の一つとなります。

 血行再建などにより動脈性血行障害の問題が除去されれば、適切な創傷処置を実施することにより、下肢切断が回避される可能性が高いと考えられます。適切な創処置としては、第1に創底部の清浄化が必須です。血行再建により健常組織(生きている組織)と壊死組織の境界が明瞭化されます。この時点で壊死した組織を切除(デブリードマン)していきます。壊死組織の除去には、外科的に壊死部分を切除する方法と軟膏処置により緩徐に除去していく方法があり、創部の状況などにより適切に判断する必要があります。

 第2の段階として良性肉芽組織の増生を促します。創底部の清浄化が進むと壊死組織が良性肉へに置き換わってきます。この際、肉芽の増生を促すために多く用いられる治療手段が、局所陰圧閉鎖療法(Negative Pressure Wound Therapy:NPWT)です。具体的な方法としては、まず壊死により組織欠損に至った部分に治療用のスポンジを充填し表面をフィルム被覆剤により密閉します。一部に吸引用のコネクターを貼付して持続的に50から125㎜Hgの吸引圧でスポンジと創表面に陰圧をかけることによって肉芽組織の増生を促します。陰圧による治療効果としては、感染性老廃物や余分な浸出液の吸引除去と浮腫の軽減、さらには創部血流の改善による肉芽組織形成の促進が挙げられます。また、肉芽組織の増生を促すための薬物療法(線維芽細胞増殖因子:basic fibroblast factor:bFGF)などを補助的に使用する場合も多くあります。

組織欠損部分が良性肉芽組織で覆われた後、創傷治療の第3段階に移行します。肉芽組織の表面が上皮(皮膚)で覆われることを上皮化と呼び、創表面全体が上皮化した時点では創は治癒に至ります。上皮の欠損部分が比較的小さい場合は、創縁から上皮の新生を促して保存的加療を継続しますが、欠損が広範囲の場合は、健常皮膚から採皮を施行し植皮術を行う場合もあります。一方で、骨や筋肉、腱などを含む広範囲での組織欠損の場合には、遊離皮弁や遊離筋皮弁などの手術を考慮する必要があります。

下肢救済療法の症例のご紹介

最後に

 重症虚血肢(足潰瘍・足壊疽)は、決して下肢・足のみの疾患ではありません。

 血管疾患は、Polyvasclar diseaseという概念で知られているように冠動脈、脳血管、下肢動脈など多岐にわたって発症し、重症虚血肢の生命予後は決して良好では有りません。しかし下肢救済療法により救肢することにより、少しでもADLを改善することが生命予後の改善に寄与することが報告されいます。

 下肢救済療法は手術(血行再建)、長期間の創処置、リハビリテーションなど、患者さんのご理解とご協力によって達成し得る治療です。今後も山形済生病院下肢救済チームとして力を合わせて、患者さんに寄り添ったお力添えを継続していけるように日々努力を重ねて参ります。

外田 洋孝(そとだ ようこう)

昭和47年生まれ
出身地  岩手県二戸市
最終学歴 山形大学医学部大学院卒業
職  歴 平成18年4月 済生会山形済生病院入職
資  格 日本外科学会(専門医)
     三学会構成心臓血管外科専門医認定機構(心臓血管外科専門医・心臓血管外科修練
     指導医)
     下肢救済学会 
     日本静脈学会
     日本ステントグラフト実施管理委員会(血管内治療実施医(腹部)・指導医(Gore
     Excluder))
     日本衛生学会
心臓血管外科についてはこちら