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健康コラム

第47話 「血管生理検査室(けっかんせいりけんさしつ)(Vascular Laboratory)」~認定血管診療技師(にんていけっかんしんりょうぎし)による下肢末梢動脈疾患(かしまっしょうどうみゃくしっかん)や深部静脈血栓症(しんぶじょうみゃくけっせんしょう)の早期発見に向けた検査~

はじめに

近年の食生活の欧米化、生活習慣病の増加とともに、動脈が狭くなる(狭窄)・詰まる(閉塞)といった下肢末梢動脈疾患(PAD:Peripheral arterial disease)などの動脈硬化疾患が増えてきているといわれています。また静脈が血栓で詰まる深部静脈血栓症(DVT:Deep vein thrombosis)や、足の血管が浮き出る下肢静脈瘤などで苦しんでいる方もいます。このような血管(動脈・静脈)疾患の早期発見・予防・治療に必要な評価を、非侵襲的に検査する場所が血管生理検査室、通称バスキュラーラボです。

当院では、認定血管診療技師( CVT : Clinical vascular technologist )という専門的知識をもったスタッフ(臨床検査技師4名、看護師1名)を配置し、チーム医療として医師・臨床検査技師・看護師・事務職員などで血管診療に携わっています。

今回は、血管生理検査室で行われている血管の検査についてご紹介します。


動脈の状態を知る検査

動脈の疾患は、主に動脈硬化が基盤となって生じます。動脈硬化は、動脈の内側にある血管内膜(内皮細胞)という血管の拡張・収縮の調整を始め、様々な血管機能の調節を行う細胞の変性や障害から始まるといわれています。年齢とともに動脈の柔軟性が失われ、動脈硬化は徐々に進行していきますが、高血圧・糖尿病・脂質異常症・高尿酸血症・痛風・喫煙・アルコール過剰摂取・肥満・運動不足・ストレスなどの危険因子によって更に進行します。動脈が狭窄・閉塞という状態になるまで症状として現れにくいため、動脈硬化の進行状態を把握することはとても重要であり、以下の検査で評価することができます。

血圧脈波検査

    両側の上腕部(腕)・足関節部(足首)・足趾部(足の指)から血圧を測定する検査で、CAVI(Cardio Ankle Vascular Index)、ABI(Ankle Brachial Pressure Index)、TBI(Toe Brachial Pressure Index)という指標を求めることができます。

CAVIは、心臓から足首までの動脈の硬さを反映する指標で、動脈硬化が進むにつれ高い値を示します。動脈の柔軟性の低下は心筋梗塞・脳梗塞の発症や予後を規定する因子となることが知られており、動脈硬化の早期診断と予防・治療等の評価に有用です。また血管の硬さから血管年齢を知ることができます。

ABI・TBIは、上腕部と足関節部・足趾部の血圧差を反映する指標です。心臓から足の血圧測定部までの動脈に狭窄・閉塞があると、その部位より末梢の血流が乏しくなって血圧の低下をきたし、上腕部との血圧差が大きくなりABI・TBI値は低下します。下肢動脈の狭窄・閉塞状態を知るのに有用です。

≪判定基準≫

CAVI正常値:8.0未満 境界域:8.0~9.0 動脈硬化の疑いあり:9.0以上

ABI正常値:1.0~1.3 境界域:0.9~1.0 動脈硬化の疑いあり:0.9未満

TBI正常値:0.6以上

下肢動脈/頸動脈超音波検査

超音波検査は、耳に聞こえない高い音(超音波)を体内に照射して、組織から戻ってくる反射波を捉えて画像化するものです。体内の情報をリアルタイムに、また直接観察することが可能な検査です。

下の画像は、頸動脈超音波検査で得られる画像です。正常な動脈(画像a)では血管壁は薄く凹凸も認めませんが、動脈硬化が進むと動脈壁の一部が厚くなってきます。動脈壁の一部が厚くなる状態をプラーク(画像b)といいますが、超音波検査ではプラークの形状や性状(柔らかい・硬い・破れやすい)の評価ができます。プラークの表面が破れてしまった潰瘍状態(画像c)や高度な狭窄・閉塞状態が観察されると、脳梗塞を惹き起こしている可能性があるので重要な所見となります。また超音波検査では血流状態の観察や速度も測定できるので、動脈硬化の進行状態や治療の効果判定に有用な検査です。

≪判定基準≫

血管壁(内中膜壁厚)の正常値:1.1mm未満

      *超音波による頸動脈病変の標準化法2017より

トレッドミル跛行検査

    ルームランナーのような医療機器で、一定条件の歩行負荷を行い、運動による下肢動脈血流の低下状態をABIで評価します。歩行によって下肢に痛みが出現する症状(間歇性跛行)や症状の無いPADの診断・治療の効果判定に有用な検査です。

皮膚灌流圧測定検査(SPP)

皮膚レベルでの血流微小循環の状態を評価します。足のどの部分の血流が悪いかを知ることができるので、重症虚血肢における虚血状態や創傷治癒の判定に有用な検査です。

経皮酸素分圧検査(tcPO2)

皮膚組織からの皮膚酸素分圧を測定します。酸素分圧値は測定部位での血流微小循環の状態を示すことから、SPP同様に重症虚血肢における虚血状態や創傷治癒の判定に有用な検査です。

サーモグラフィー検査

皮膚の温度変化を色調で表わし画像化する検査です。皮膚の温度が高い部分は赤系の色、逆に低い部分は青系の色に表示されるため、客観的に血行の悪い部分を評価することができます。手足の指先が冷たいなどのレイノー病が疑われる場合には、4℃の冷水に手を浸す冷水負荷試験を行い、皮膚の温度が回復するまでの時間を測定して評価する場合もあります。


静脈の状態を知る検査

静脈は全身に送られた血液を心臓に戻す働きをもつ血管です。立位の状態でも心臓に血液を戻すことができるのは、「第2の心臓」とも称される下腿筋(一般的にふくらはぎの筋肉)の収縮による血液押上げ機能と、押上げた血液を戻さないようにする静脈弁の働きなどによるものです。エコノミークラス症候群として知られているDVTは、椅子に長時間座っていることで血流が停滞状態となり血栓化して発症します。その血栓が肺に飛んでしまうと肺動脈血栓塞栓症を惹き起こし、死に至る場合もあります。また下肢静脈瘤は、静脈弁が壊れることで発症します。静脈弁が壊れると押上げられた血液が戻ってしまう状態(逆流)が繰り返され、やがて静脈は拡張し、蛇行するようになり、皮膚症状が現れ重症化の経過を辿ります。このような静脈疾患の状態を知る検査として以下のものがあります。

下肢静脈超音波検査

動脈の検査でもご紹介した検査ですが、直接下肢静脈の内部や血流状態を観察できることから、血栓の存在確認が可能で、その範囲や閉塞状態、遊離しやすい血栓かどうかなどを評価することができます(画像d)。また血流状態の観察からどの辺りの静脈弁が壊れているかなどを知ることができるので、下肢静脈疾患の検査ではとても重要な検査です。

 *超音波による深部静脈血栓症・下肢静脈瘤の標準的評価法より

空気容積脈波検査(APG:Air plethysmography)

ふくらはぎの部分にセンサーを取り付け、仰臥位や立位の状態およびつま先立ち運動を行い、静脈弁の逆流状態と下腿筋の機能を知ることができます。下肢静脈瘤の病態を総合的に評価するのに有用な検査です。

≪判定基準≫

脈弁逆流評価(VFI:Venous Filling Index) 正常値:2.0ml/sec未満

下腿筋の機能評価(EF:Ejection Fraction) 正常値:35%以上


最後に

当院の血管生理検査室では、血管疾患に合わせた検査セットが組まれ、初期の血管疾患から重症例に至るまで総合的に評価できます。血管治療の実績では、H28年度のDPC病院において、当院の下肢静脈瘤治療実績件数が全国第1位となりました。また今年の7月からは下肢閉塞性動脈硬化症(足潰瘍・足壊疽)外来が開設され、血管診療の充実が図られています。安全・安心で精度の高い検査を受けていただけるようスタッフ一同研鑽を積んでいますので、手足の痛み・浮腫みなどの症状でお困りの方は、一度当院の医師にご相談ください。

工藤 祐一(くどう ゆういち)

出 身 地  山形県尾花沢市
職  歴 平成5年4月 済生会山形済生病院入職
資  格 臨床検査技師
     認定超音波検査技師
     認定血管診療技師


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