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健康コラム

第25話 帯状疱疹(たいじょうほうしん)とペインクリニック

ペインクリニック 山川 真由美

帯状疱疹とはどんな病気?

帯状疱疹は子供でみられる「水痘(水ぼうそう)」と同じ「水痘・帯状疱疹ウイルス」で起こる病気です。

写真掲載にあたり
本人の了承を得ております。

子供の水痘(水ぼうそう)は、水疱ができてしまうと通常3~4日くらいで治ります。しかし、水ぼうそうが治った後も、このウイルスは皮膚から神経(神経節)に移動して身体の中に一生とどまります。ストレスや疲れ、あるいは他の病気になって体が弱って免疫力が下がると、おとなしくしていたウイルスが再び活動をはじめ、神経から皮膚へ拡がって神経の走り方に沿って痛みがおこり水疱ができます。これが帯状疱疹という病気です。

帯状疱疹は子供から大人まで誰でも発病します。近年、帯状疱疹にかかる人が増えてきて、6~7人に1人の割合で発病するとも言われています。特に、50歳を過ぎてから発病する人が多く、高齢になってからの場合、重症になることが少なくありません。

帯状疱疹は全身のどの神経にでも発症します。目や額・顔は三叉神経、後頭部・首・肩・上肢は首の神経、脇の下・胸・背中・腹は胸の神経、下肢は腰の神経、お尻は仙骨神経、左右どちらか一方に水疱が出るのが特徴です。帯のようにつながって水疱ができるので「帯状疱疹」という名前になりました。東南村山地方では「つづらご」、庄内地方では「白蛇」とも言われています。「白蛇」に巻かれたら死んでしまうという言い伝えがあるそうですが、片側だけでも死ぬほどの痛みなので、もし両側になったら死んでしまうと恐れたのでしょう。

帯状疱疹ではウイルスが神経から皮膚の方だけでなく脊髄の方へも拡がります。そのため、時には知覚神経だけでなく運動神経も障害されることもあります。たとえば、目を動かす神経が侵されて物が2つに見えたり、顔の神経が侵されて顔面神経麻痺になったり、腕や足を動かしにくくなることもあります。

帯状疱疹の治療と痛み

現在の帯状疱疹の治療の主体は、ウイルスの増殖を抑える抗ウイルス薬です(ゾビラックス®、バルトレックス®、ファムビル®その他、後発品もあります)。この薬を、帯状疱疹の水疱ができて5日以内に使うことによって、皮膚の症状は抑えられ、早く治るようになりました。皮膚の痛みも一時的に軽くなるようです。しかし、皮膚の状態が良くなっても、痛みが残ったり再び痛みが強くなる場合があります。

ウイルスに侵された神経も治ってきますが、1本1本の神経がそのまま元通りになるわけではありません。つながり方が変わったり、新しい刺激が発生したりして別の痛みが起きるのです。触っただけで痛みが走ることもあります。また、急性期の痛みが強いときには、脳にも「痛みの記憶」が残るといわれています。この痛みはだんだん薄らいでいきますが、長く続く場合もあります。

大切なことは帯状疱疹は皮膚の病気ではなく、神経の病気であり「痛み」が帯状疱疹の主症状であるということです。水疱が出る前から痛くなる場合もありますし、水疱が出始める頃に痛みが強くなることもあります。また、はじめはあまり痛くなかったのに、水疱が治りかかる頃から痛みが強くなる場合があります。痛みの程度は患者さんごとに異なります。少々の痛みがあっても発病前と同じ生活レベルを維持できる場合や、皮膚の症状が軽く痛みがない場合は、特別な治療をする必要はありません。何も心配せずに、十分に休養を取ってバランスのとれた栄養に気を配り、普通の日常生活を続けてください。ただし、無理は禁物です。しかし、強い痛みのためにそれまでの仕事や生活ができない場合や、夜眠れない・痛くて食欲がない・動くと痛いなどの場合は、痛みの治療をできるだけ早く始めなければなりません。異常な痛みを我慢していると、体力は消耗して回復が遅れ、皮膚が治っても痛みが長い間持続してしまうことになります。特に帯状疱疹の皮膚の症状は治まったのに、痛みだけが6か月以上続く場合を「帯状疱疹後神経痛」と呼んでいます。現在でもこの帯状疱疹後神経痛を確実に治す方法はありません。

帯状疱疹の痛みの治療 ペインクリニックでは何をするか

ペインクリニックで行う主な痛みの治療法は、神経ブロック療法と鎮痛薬の内服です。神経ブロックとは、痛みを起こしている神経の近くに局所麻酔薬を注射して痛みの刺激を遮断(ブロック)する方法です。知覚神経ブロックは痛みそのものを抑え、交感神経ブロックは血液の流れを良くして筋肉の緊張をとって痛みを和らげます。痛みは筋肉を緊張させ血液の流れを悪くします。血液の流れが悪くなると痛みを引き起こす物質(発痛物質)が作られてたまってきますので、さらに痛みが強くなるという悪循環が起こります。神経ブロックはこの悪循環を断ち切ります。ただし、神経ブロックは出血傾向のある患者さんや抗凝固療法(血液を固まりにくくする薬を内服しているなど)を行っている患者さん、感染を起こしやすい患者さんなどには行えません。現在、外来で行えるのは、頭や顔、上肢の帯状疱疹に対する星状神経節ブロックだけです。

鎮痛薬の内服は、簡便で患者さん自身でできます。鎮痛薬には効果が強いものから弱いものまで様々な種類があり、痛みの強さによって使い分けなければなりません。弱い痛みには非オピオイド鎮痛薬(ロキソニン®、ボルタレン®、ハイペン®、ナイキサン®など様々)、中程度から強度の痛みに対してはオピオイド鎮痛薬を使います。このオピオイド鎮痛薬の多くが「医療用麻薬」に分類されます。「医療用麻薬」とは、医療に必要で治療のために使う薬なのですが、「医療用」より「麻薬」という言葉に拒否反応が強く、医師も患者さんもなかなか使おうとしません。弱い鎮痛薬で痛みがコントロールできない場合、より強い鎮痛薬を使わなければなりません。そして、痛みがコントロールできるまで鎮痛薬を増量していかなければなりません。痛みの治療で大切なことは「適切な鎮痛薬を適量」使って、痛くなかった時の生活を維持できるようにすることです。帯状疱疹になっても、痛みがない場合は鎮痛薬を使う必要はありません。しかし、強い痛みのために、それまでと同じ生活ができない日が続くようでしたら、我慢しないで痛みをコントロールすること、痛みから解放されるように鎮痛薬を使うことが必要です。

「痛みの治療」と患者さんの役割

帯状疱疹では発病初期からの痛みの治療が重要です。きちんとした治療を受けないと、「帯状疱疹後神経痛」で長く苦しむ危険が高くなります。帯状疱疹後神経痛を治す治療法は確立されていません。ただし、予防はある程度可能です。危険因子として、①高年齢(60歳以上)、②症状の強さ(水疱、痛み、神経症状など)の2つが明らかになっています。一方、年齢が高いほど帯状疱疹になりやすく、症状も強くなりやすいこともわかっています。高齢の方ほど帯状疱疹後神経痛のリスクが高いのです。皮膚の症状は抗ウイルス薬で抑えることができるようになりましたし、誰が見てもわかります。しかし、痛みは患者さんにしかわかりません。帯状疱疹の痛みが残ってペインクリニックを受診した多くの患者さんが「皮膚が治れば痛みが治ると思っていた」とか、「最初から痛みの治療が大切だと誰も教えてくれなかった」と訴えます。痛みの治療を患者さんが要求しなければなりません。皮膚の症状が治ってから痛みの治療を始めるのでは遅いのです。帯状疱疹が発病したとき、抗ウイルス薬で皮膚の治療を行うと同時に適切に痛みの治療を行うことが重要です。

山川 真由美(やまかわ まゆみ)

 

出身地  栃木県
最終学歴 山形大学医学部
職  歴 平成23年1月 山形済生病院ペインクリニック開設
資  格 日本ペインクリニック学会 専門医
     日本麻酔科学会 指導医・専門医
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