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健康コラム

第29話 変形性膝関節症(へんけいせいひざかんせつしょう)とその治療

整形外科 膝専門 富樫栄太

みなさん、高齢者の愁訴で最も多い骨・関節疾患はなにかご存知でしょうか。答えは腰背痛と膝関節痛です。外来でこの2つの愁訴を訴える患者が来ない日はありません。逆に整形外科の代名詞でもある『骨折』は来ない日があります。この差はなんでしょう。それは腰背痛や膝関節痛が関節軟骨の老化によること主な原因で、言い換えると年をとれば誰でもなる可能性がある疾患だからです。今回はその中でも代表的な疾患である変形性膝関節症について説明させていただきます。

これが変形性膝関節症膝

関節外来に来られる方の多くはこんな感じで来られます。 『近頃膝が痛くて近くのお医者さんを受診しました。レントゲンを撮ってもらったら軟骨が減っている、骨が変形していると言われ薬や注射をしてもらったけど良くならない。なんとかならないか。』

膝関節には軟骨や靭帯などレントゲンには写らないけれども、機能的には大きな役割を担っている柔らかい組織があります。軟骨はクッションの役目を、靭帯は膝を安定させる役目を主に担っています。軟骨には関節軟骨と半月板の2種類あります。軟骨は寿命があり早い人では40歳ぐらいから変性が始まりその機能が低下してきます。

では写らないのになぜ減っていると分かるのでしょう?それはレントゲン写真において関節裂隙(かんせつれつげき)の狭少化や骨の変形が確認できるからです。軟骨が残っている場合、大腿骨と脛骨の隙間は開いて見えます。しかし軟骨が減ってきた場合、次第にその隙間は狭くなり最終的には消失してしまいます。また骨もストレスを受ける事で硬くなったり変形したりしてきます。レントゲンで変形性膝関節症を確認したい時には立って写真を撮った方が色々な情報が得られます。変形性膝関節症は女性が4:1の割合で女性に多い疾患です。

正常膝

変形性膝関節症

変形性膝関節の保存治療について

治療は大きく分けると保存療法と手術療法に分けられます。原則としてまず保存療法を行います。野球のピッチャーで言うところの先発投手です。それもなるべく体への負担が少なく痛みや苦痛を伴わないものから始めて行きます。大抵は痛み止めの薬や湿布を使用したり、適切なリハビリテーションを行ったり、膝への負担を減らしたり、少し体重を落としたりといったことです。それでも痛みがとれなければヒアルロン酸の関節内注射や装具による治療を併用します。最近はかなりいい痛み止めが出てきていますし、ここまでの治療は近くの整形外科でも問題なく出来ますので、まず膝が痛くなったら受診してみてください。

しかし、残念ながら保存療法は限界があります。現在出ている薬や注射、もちろんサプリメントも含めて軟骨を元通りに治す薬や骨の変形を治す薬は存在しません。更に人間は基本的に歩かなければ生活する事は出来ませんので、膝の軟骨は年齢とともに少しずつ減少し、骨の変形も進んで痛みは段々強くなってきます。結果としてそれまで行っていた保存療法でも痛みを抑えきれなくなり、やりたい事を我慢しなくてはならないことが多くなってきます。また後述する手術によって痛みは取ることが可能ですが、膝の動きは劇的に改善することはありませんので、膝の伸びや曲げるのが出来なくなってきた場合は早めに手術療法を行うことが望ましいと思われます。

変形性膝関節症の手術療法について

そのような状態になった場合、先程述べた手術療法の出番となってきます。手術はどのような手術でも感染症・深部静脈血栓症などのリスクを伴います。従ってそれらのリスクを冒してでも得られるメリットが多い場合に適応となります。代表的な手術は関節鏡、高位脛骨骨切り術、人工関節置換術です。関節鏡による手術では切れてしまった半月板を縫ったり切除したりします。傷も小さく早期回復が見込めます。当院では1週間の入院期間、術後1ヶ月での社会復帰を勧めています。しかし限界があり関節軟骨に関してはほとんどなにも出来ませんので比較的軽度の変形性膝関節症の方に適応があります。また根治術ではありませんので中継ぎピッチャーの役目を果たす手術です。

それよりも変形が進んできた場合高位脛骨骨切り術や人工関節単顆置換術の適応となります。どちらも膝の内側だけ痛んできて、他の部分の軟骨が比較的きれいな場合に適応があります。高位脛骨骨切り術は名前の通り、脛骨の膝に近い場所で骨を切り下肢のアライメントをかえてしまう手術です。長所は初期固定に金属製のプレートとスクリューを使用しますが、骨癒合が得られた段階でそれらを抜去するため人工物に頼る必要がないことです。脱臼・インプラントの摩耗や破損などのおそれがないことから比較的若く活動性が高い方が適応となります。欠点としては次第に外側の軟骨が痛んできますので長くはもたないことや、リハビリテーションを含めて社会復帰に時間がかかること、痛みが残存するケースがあることです。入院期間は1ヶ月半~2ヶ月、その後仕事復帰まで数ヶ月を要します。比較的若く活動性の高い方に適応がありながら、その欠点や人工膝関節単顆置換術の近年の成績がすばらしい事から世界的には年々減少しているのが現状です。

(図1)

(図2)

その人工膝関節単顆置換術ですが、こちらも適応は高位脛骨切り術とほぼ同じく膝の内側のみ痛んでいて、靭帯の機能が正常な方が適応となります。従来の人工膝関節全置換術に比べて手術の侵襲が少なく、術後回復が早い事や機能的にも優れている事から近年かなり症例数が増えています。長所としては高位脛骨骨きり術や後に述べる人工膝関節全置換術よりも回復が早いこと、安定した長期成績が得られていることです。欠点として脱臼やインプラントの摩耗・折損といった人工関節ならではの問題があります。2週間の入院期間、その後2~3ヶ月での社会復帰が一般的です。どちらの手術も、中継ぎというよりは先発が早く崩れてしまった時のロングリリーフといったところでしょう。人工膝関節単顆置換術はあわよくばそのまま完投までしてしまう能力があります。

いよいよ抑えの切り札登場

最後に紹介するのは人工膝関節全置換術です。膝の中~高度の変形に対して適応があります。関節内の軟骨を全て金属(インプラント)に取り替えてしまう手術です。イメージとしては歯医者さんの金属の被せものの様なものです。インプラントの材質は多くはコバルトクロム合金やチタンを使用しています。また大腿骨と脛骨のインプラントの間にポリエチレンというものを挟みます。車と同じように色々なメーカーから色々な機種が販売されており、執刀する医師がその長所を最大限に生かせるよう機種を選択し使用しています。痛みをとるという事に関してはかなりの効果があり、長期成績も安定していることから日本では現在年間5万5千件以上の手術が行われています。市場が大きいことからメーカーも積極的に改良に取り組んでおり、最近ではポリエチレンを長持ちさせるため酸化防止ビタミンEを含有させる製品や、術前にMRIを撮影し自分の骨の模型を作りそれにあったオーダーメイドの機械を作る事が可能となっており、日々製品品質は向上しています。その結果20年以上長持ちする事も珍しくなくなってきています。入院3週間、社会復帰は2~3ヶ月ぐらいです。

(図3)

欠点としては先程述べた人工関節ならではの欠点に加えて、元々の生理的な膝の動きには出来ないことが挙げられます。とはいっても通常の生活や農作業程度の動きであれば全く支障なく出来ますので満足度の高い手術である事にはかわりありません。またこれらの欠点についても症例数が多い分、研究も盛んに行われており、近い将来元の膝に近い人工関節が出来る日が来るものと思われます。

最後に

膝の専門医は、このように膝の状態に加えて年齢や社会的背景を考慮して治療を選択しております。なかなか痛みが良くならない場合は是非膝関節外来を受診してみてください。

富樫 栄太(とがし えいた)

出身地  千葉県浦安市
最終学歴 山形大学医学部 卒業
職  歴 平成18年10月 済生会山形済生病院 入職
現  職 整形外科医長 専門医
資  格 日本整形外科学会専門医
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