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健康コラム

第43話 「健診・人間ドックにおける腎臓関連検査(じんぞうかんれんけんさ)のおはなし」

はじめに

健診や人間ドックには様々な検査が含まれていますが、腎臓機能検査にはどのようなものがあるのでしょうか。また異常を指摘された場合どんな病気の可能性があるのでしょうか。今回は健診・人間ドックにおける腎臓機能検査の意味と疑われる病気についてお話したいと思います。

<腎臓の場所、大きさ>

腎臓はそらまめのような形をしたにぎりこぶしくらいの大きさの臓器で、腰のあたりに左右1つずつあります。

<腎臓のはたらき>

腎臓は主に下のような仕事をしています。 腎臓は血液を濾過し、一方で濾過したものの中から体に必要なものを再び体に取り込む(再吸収といいます)ことによって尿をつくっています。 尿を作る過程で主に上の1~3が行われます。腎臓は体を正常な状態に保つのに重要な働きをしています。腎臓の働きが低下すると老廃物や毒素が体に蓄積し、水分や電解質などのバランスが崩れ尿毒症になります。それ以外にも4~6のような仕事も行っており、このため腎 臓病になると貧血や高血圧になったり、さらには骨がもろくなったりします。

<健診・人間ドックにおける腎臓関連の検査について>

健診・人間ドックでは腎臓関連の検査として血液検査と尿検査を行います。これにより現在の腎臓機能に問題はないのか、また将来腎臓機能を低下させるような病気がかくれていないかを見つけることができます。

I. 腎臓機能を表す検査

血清クレアチニン
クレアチニンは筋肉細胞の中から出てくる老廃物で、腎臓で濾過され尿へ捨てられます。腎臓機能が低下しますと尿への排泄が減少するため血中にクレアチニンがたまってきます。血中へのたまり具合を見ることによって腎臓機能を評価するものです。

  1. eGFR (イー・ジーエフアール)
    GFRは腎臓の濾過能力(すなわち腎臓機能)を直接表すものです。血清クレアチニンは初期の腎臓機能低下を見逃しやすいという欠点があるため、本来はGFRで評価するのが望ましいのですが、GFRを直接測定するには非常な手間と時間がかかるため、病院でも通常ほとんど測定されていません。そこで血清クレアチニン、年齢、性別からGFRを推定する式が考案されました。計算によって求められたGFRがeGFRになります。
  2. 尿素窒素
    血清クレアチニンと同様老廃物の一種であり、腎臓から尿に排泄されます。腎臓機能が低下すると血液中にたまり高値を示します。たんぱく質が分解されたあとに出来る物質であり、腎臓機能だけでなく食事の内容などによっても値が変化します。  

注:医療保険に加入している40歳以上の方が受診する「特定健診」において、血清クレアチニンや尿素窒素は現在必須項目となっていないため、受診される健診によっては測定されない場合があります。

II. 将来腎臓機能を低下させる病気がかくれていないかを調べる検査

  1. 尿たんぱく
    通常尿にたんぱくはほとんど排泄されません。したがって健診・人間ドックで尿にたんぱくが検出された場合、腎臓に何らかの病気がかくれている可能性があります。ただし健康な人でも激しい運動や発熱などを契機に尿たんぱくが出ることもあります。この場合は通常尿たんぱくは一時的であり、治療の必要はありません。

  • 尿潜血
    検査では肉眼ではわからない程度の血尿を検出します。尿の通り道である腎臓、尿管、膀胱(ぼうこう)、尿道のいずれかで出血していると、尿に血液が混ざり尿潜血陽性となります。
<検診・人間ドックで見つかることの多い腎臓病>

検診や人間ドックで見つかる代表的な腎臓病には以下のようなものがあります。

  1. 慢性糸球体腎炎
    腎臓の中でも特に「糸球体」に炎症が起こる病気です。「糸球体」は血液をろ過するところで、ここに炎症が起きると本来漏れてはいけない血液中のたんぱくや赤血球が尿中に出てきます。 「慢性」の病気ですので、尿たんぱく、尿潜血陽性は通常年単位で続きます。長期間炎症が持続することにより腎臓が徐々に傷んでゆき、腎臓機能が低下する(慢性腎不全)場合があります。慢性糸球体腎炎には様々なタイプがありますが、代表的な病気として比較的若い方に多いIgA腎症(アイジーエイ腎症)があります。必要に応じ腎生検(腎臓の組織を一部採取し顕微鏡で調べる検査)を行い、正確に診断したうえで治療方針を決定します。

  • 腎硬化症
    高血圧などが原因で腎臓の血管に動脈硬化が進み、腎臓機能の低下を引き起こすものです。
  • ネフローゼ症候群
    尿に大量のたんぱくが漏れることによりむくみや高コレステロール血症を呈します。尿に大量のたんぱくが漏れる病気はいくつもあり、これらをまとめてネフローゼ症候群と呼んでいます。原因となる病気のうち頻度の多いものとして、上記の慢性糸球体腎炎や糖尿病による腎臓障害(糖尿病性腎症)があります。ネフローゼ症候群においても原因を特定するために腎生検を行う場合があります。  

※ 慢性腎臓病(CKD) 近年、慢性腎臓病(CKD)という疾患概念が注目されています。CKDは一つの病気ではありません。CKDとはその名の通り慢性に経過するすべての腎臓病のことを指し、腎臓病を幅広くとらえた考え方です。当然上記の慢性糸球体腎炎や腎硬化症、ネフローゼ症候群もCKDに含まれます。検診・人間ドックの腎臓関連の検査で異常を指摘された場合はCKDの可能性があるということになります。

CKDの問題点は、①人数が非常に多いこと、②将来透析が必要な「慢性腎不全」になりやすいだけでなく、心筋梗塞や脳卒中などの直接生命に関わる心血管病を発症する危険が高くなることがあります。慢性腎臓病は現在わが国に1330万人いるとされ、これは20歳以上の成人の8人に1人という数に相当し、新たな国民病と言われています。

<検診・人間ドックで異常を指摘され、医療機関を受診した後の流れ>

「要精密検査」と判定された場合、医療機関では通常再度血液検査や尿検査が行われます。再検査で異常がない場合は一過性のものと判断され、経過観察となる場合が多いです。再検査でも同様の異常が見られた場合、精密検査を行うことになります。 尿検査で異常がある場合は慢性糸球体腎炎の可能性があり、正確な診断をつけるために腎生検が行われます(患者さんの状態よっては行えない場合もあります)。腎生検は通常数日間の入院が必要です(当院では4日間)。 また血液検査で腎臓機能の低下が疑われた場合も、やはりその原因を調べるために腎生検を行う場合があります。しかし既に病気が高度に進行してしまっていると、もはや腎生検は行えず、この場合は原因を特定できないため、根本治療ではなく病気の進行を遅らせる治療を行っていくことになります。

<最後に>

腎臓病は末期になるまで自覚症状が現れないことが多いため、健診を受けなければ病気を早期に見つけることは困難です。さらに腎臓はある段階まで悪くなってしまうと、治癒が望めないばかりか腎臓機能の悪化をくい止めることも困難となります。 既に高血圧などの生活習慣病を患っている方はもちろんのこと、特に病気のない方も定期的に検診・人間ドックを受けましょう。そして異常を指摘されたら放置せず医療機関を受診しましょう。

髙﨑 聡(たかさき さとし)

昭和44年生まれ
出身地  岩手県
最終学歴 山形大学大学院医学部卒業
職  歴 平成26年4月 済生会山形済生病院入職
資  格 日本内科学会 認定医、総合内科専門医
     日本腎臓学会 専門医、指導医
     日本透析医学会 専門医
     日本リウマチ学会
     日本腎臓リハビリテーション学会
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