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健康コラム

第42話 「心不全(しんふぜん)とその予防」

♦心不全とは・・・? 心臓が止まること!?

『心不全』は心臓が止まることではありません! 心臓のポンプとしての働きが低下して、全身の臓器に必要な血液量を送ることができなくなった状態をいいます。そのため心臓のポンプ機能が低下すると全身に様々な症状が現れます。 心不全は一つの疾患名ではありません。 心筋梗塞、狭心症、心筋症、弁膜症、高血圧、不整脈などの疾患が最終的に至る病態で『終末像』と言われています。 今回は心不全とその予防についてお話ししたいと思います。

<心不全の多彩な症状>

心不全の代表的な自覚症状は、「動悸」「息切れ」「呼吸困難」「むくみ」です。 初めは、普段できていた階段の昇り降りなどで息切れが起こり、次第に病状が進行すると息苦しさで横になって眠ることも困難になります。その他、心臓と関係がないと思うような「便秘」「食欲低下」「物忘れ」なども心不全が関係していることがあります。(図1)

<日本の心不全患者の特徴>
  1. 高齢者に多い(約70%が65歳以上)
  2. 複数の合併症を有する(高血圧、心房細動、糖尿病、腎臓病などが多い)
  3. 再入院率が高い(退院後6か月以内27%、1年後35%)
<心不全の原因疾患や重症度を評価するための検査>

胸部レントゲン、心電図検査、心臓超音波検査、心臓カテーテル検査など様々な検査がありますが、胸部レントゲンや心電図検査のみで心不全を見つけるのは難しいです。そこで診断の手助けをしてくれるのがBNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)というホルモンです。BNPの値を調べることで心臓病、特に心不全の重症度を見ることができます。

BNPは心臓に負荷がかかると合成・分泌され、利尿作用、血管拡張作用、交感神経抑制、心肥大抑制など心筋を保護するように働きます。これは採血で調べることができますので気になる症状があればかかりつけの先生に相談してみてください。

<心不全の治療>

まずは心不全の原因となる心疾患や生活習慣病を予防することです。 心不全になってしまったら、酸素投与やお薬投与で体のうっ血や末梢循環不全を取り、全身に十分な血液や酸素が供給されるように治療します。 お薬でも治療困難なほど重症になると人工心臓や心臓移植が必要となります。 高齢者の場合、息切れなどがあっても歳のせいと思ったり、動くと苦しくなるので動かなくなり心不全を見逃しがちです。そのため心不全なのに心不全の治療を受けていない方も多くいらっしゃいます。これは心不全を見逃すだけではなく、動かなくなることでの筋力低下や生活の質の低下につながってしまいます。さらに心不全では脳血流低下で物忘れや集中力低下、不穏などの症状が出現することがあります。原因のわからない認知・精神症状が現れたらこれも心不全の可能性があります。いずれにせよ心不全は早期発見・早期治療が重要となります。患者様ご自身では変化に気づかないこともあります。ご家族や患者様を支えている方々が状態の変化をキャッチし受診していただくことで早期発見・早期治療につながります。

<心不全増悪・再入院の要因>

塩分・水分制限の不徹底33%、治療薬服用の不徹底12%、過労11% *医学的要因ではなく患者様の生活管理が要因となっているものが大半を占めています。退院後の生活管理について患者様は適切なアドバイスを受け、医療者は患者様の生活背景や思いに寄り添いながら一緒に管理方法を考え実践していくことが再入院を減らすことにつながります。(図2)

<心不全の生活管理>

食事・運動・服薬の徹底が大きな3本柱!!

【食事(塩分・水分制限)】

東北地方の塩分摂取量(図3)は10.9ℊ/日、塩分摂取量の多い東北地方のなかでも山形は約12ℊ/日と多く、味の濃いものを好む傾向にあります。しかし目標塩分摂取量(日本高血圧学会推奨)は6ℊ/日以下と言われています。減塩を心がけることは多くの心疾患や生活習慣病を予防できるため、減塩食のレシピがインターネットや書店でも多く見受けられるようになりました。当院でも管理栄養士による栄養指導が行われています。減塩食を作ることは大切で、可能な限り続けていただきたいです。しかし毎日作ることが負担で続かなくなる方も多くいらっしゃいます。味の薄いものを作り、味の薄いものだけを食べる(減塩食を作りそれだけを食べる)ことだけが減塩の方法ではありません。長年慣れ親しんだ味覚を変えること、毎日減塩食を作る負担、減塩による食欲低下など毎日継続するには様々な壁があります。 1日の食事内容を書き出してみてください。漬物や味噌汁はどのくらい摂取しているでしょうか?長年受け継がれる伝統の味、漬物や味噌汁、食べたいですよね?これらは決して食べていけないものではありません。ただ摂取量に注意が必要なのです。その時に実践していただきたいのは、『味の濃いものの摂取を半分にする』ということです。 摂取量を減らすことで減塩につながります。漬物を毎食摂取していれば朝晩に減らす、5切れを2~3切れにする、味噌汁の汁を半分にして具を多く盛るなど目でみてわかる減塩から少しずつ始めてみませんか?

【治療薬服用の徹底】
処方された内服薬は用法・容量を守って内服し続けることが大切です。高齢の方は内服したか分からなくなってしまい飲まなかったり重複して飲んでしまったり管理がうまくいかないことが多いです。頻回にトイレに行くのが億劫で利尿剤を中断したり、血圧が高くないからと降圧薬を中断してしまう場合もあります。内服管理やお薬の作用で困っていることがあれば自己中断する前に受診し相談してください。薬物情報提供書(お薬の説明書)に記載されている情報以外にも様々なよい効果があるお薬もあります。分からないことがあればご質問下さい。確実に内服できるよう一緒に考えてみましょう。

【運動】
山形は畑仕事や家畜の世話、除雪など活動量が多くなる環境にあります。動きすぎは心臓に負担をかけてしまいます。しかし運動しないと筋力や体力が低下してしまうため、症状が落ち着いている時は積極的に運動を行うことが望ましいです。 当院は心臓リハビリテーション実施施設です。心臓リハビリテーション指導士が在籍し、心臓病の患者様が体力の回復・自信の回復・社会復帰・再発防止できるよう関わっています。 通常は入院中から開始し、退院後も外来で週1~3回、約3か月間継続するものになりますが、交通が不便であったり頻回な通院が困難な患者様もいらっしゃいます。そこでご自宅でも実施できる運動についてご紹介します。全身運動がよいと言われており、最も簡単に出来るのがウォーキングです。週3~5回、15~30分を1日1回、慣れてきたら1日2回。大切なのは運動の強さです。厳密には嫌気性閾値というものを測定し患者様個人の運動目安の脈拍数で行うのが理想ですが、運動しながら自分の脈拍数を測定することは難しいです。 そこで運動中に会話がどの程度できるかを目安とします。具体的には、ウォーキングしながら会話ができる程度が目安となります。歌が歌える程度であれば運動の強さは弱く、逆に会話をするのも辛いと強すぎる、というようになります。

<心不全の治療目標>
  1. 生命予後の改善:心不全の悪化を予防し長生きできるようにすること。
  2. 生活の質の改善:心不全の症状を緩和し、家の中で生活するのがやっとだったのが、外に出て少し散歩できるようになるなど生活の質を向上させること。

*心不全は完治するということが困難で、退院時や調子のいい時は症状が落ち着いているだけです。そのため一生うまく付き合っていかなくてはなりません。

<最後にひとこと・・・>

心不全患者様の多くが、入退院を繰り返す多疾患有病の高齢者です。心不全の増悪を繰り返すたびに重症化し、予後が短くなると言われています。そのため増悪しないよう生涯にわたる心不全の管理が必要になります。住み慣れた場所で生活の質をできるだけ保ち、その人らしく生活できるよう、そして「生きていてよかった」と思ってもらえるようサポートしていきたいと思っています。治療は一人で行うものではありません。悩みを共有し一緒に解決方法を考え、増悪しないように一緒に向き合っていくものです。 心不全に限らず「血圧が高い」「心臓が悪いと言われた」など循環器疾患に関する質問や困っていることがあれば、ヘルツケア外来で相談をお受けします。(詳細はHPをご覧ください)

また、心臓にやさしい生活方法についてもご紹介しますのでお気軽にご連絡ください

鈴木 瑛子(すずき えいこ)

出身地  山辺町
最終学歴 北里大学看護キャリア開発・研究センター
     認定看護師教育課程 慢性心不全看護認定看護師
     コース
職  歴 平成19年4月 済生会山形済生病院入職
資  格 日本看護協会 慢性心不全看護認定看護師

2014年に日本看護協会「慢性心不全看護認定看護師」の資格を取得し、現在は循環器内科病棟で勤務しながら活動を行っています。再入院を予防するための生活指導や心臓リハビリテーションに通院する患者様が退院後も継続した生活管理が行えるようサポートしています。
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