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健康コラム

第20話 人工股関節(じんこうこかんせつ)

整形外科 医師 石井政次

はじめに

股関節が変形した場合、痛みがでるばかりか、股のひろがりも曲がりも悪くなり歩き方もびっこになります。そして徐々に痛みも強くなり歩くのも大変になります。以前は骨を切って関節を改善させる方法が中心でしたが、かなり悪くなってからでは手術はできません。最近は人工関節が普及し動き、痛みの改善が得られ、動きも歩き方もよくなります。しかし、人工関節も寿命があり通常15年から20年で1割程度の人が入れ換えが必要といわれています。大切に扱わなければなりません(図1)。

人工股関節とは

人工股関節は、骨盤に埋め込むカップと大腿骨に埋め込むステムからなります(図2)。カップとステムを利用することにより骨同士がすれることもなくなり、痛みは改善します。カップの種類もポリエチレンという材質が中心ですが、セラミック、金属などもできてきてどれがよいのか今後の課題です。ステムも主体は金属ですが、頭の部分がセラミックのステムもあります。カップとステムを骨と結合させるのにセメントを使用する方法としない方法があります。最初は、セメント使用が主流でしたが、最近はセメント使用しないタイプも安定した成績が得られてきており、これも今後の課題です。

手術時の合併症

術後にまず注意しなければならないことに脱臼があります(図3)。カップからステムがはずれることをいいます。だんだんと時間とともにはずれにくくなりますが、医療スタッフの指導に従いはずさないようにしましょう。エコノミークラス症候群の言葉を聞いたことがあるでしょうか?血栓(血の固まり)が、血管の中にできることをいいます。これが肺に飛んだりすると重篤となることがあります。これも予防が大切で、足首の運動や水分をとったり、弾性ストッキングはいたりである程度予防できます。最近は薬による予防も行っており、手術前にはお医者さんから詳しいお話があります。その他感染(化膿)に注意が必要です。感染は、手術後に起こる場合と何年もして起こる場合があります。手術後に起こる場合は1000人中数人の割合です。体調の悪い時は手術を控えましょう。何年もしておきる場合は、他の場所から細菌が飛んでくることで起こります。扁桃腺炎、抜歯後、擦り傷・きり傷の化膿、肺炎・胆のう炎など他の病気の時は注意し、股関節の痛みと熱が出るときはすぐに整形外科を受診しましょう。

人工股関節を長持ちさせるために

人工関節を入れ換える原因には、1、体重の重みや重労働などによるストレス、2、骨溶解(骨が溶ける)、3、骨折、4、感染(化膿)などがあります。

  1. 体重の重みや重労働などによるストレス
    我々が歩いているとき、股関節には体重の3倍から4倍の重みがかかります(図4)。その重みで人工関節のすりへり(図5)や人工関節が骨からはがれたりします。その予防には、減量や長時間歩くときは杖をつく、重いものを持ったり重労働を控えることが必要です。

  2. 骨溶解(骨が溶ける)
    人工関節の磨耗が原因で起こる生体反応です(図6)。人工関節の磨耗が起きにくい材質の改良やセラミック、金属のカップの使用などで骨溶解対策を講じて解決されつつありますが、今後の課題です。

  3. 骨折
    人工関節の長期の問題として骨が弱くなる傾向にあります。そして、転倒により骨折が起きることがあります(図7)。予防には転ばないように杖ついたり、カルシウムを十分にとったり、骨粗鬆症の治療したりすることが必要です。

  4. 感染
    先にのべたように手術後にすぐに起こる場合としばらくして起こる場合があります。しばらくして起きる場合はほかのところから細菌が飛んでくることが原因です。扁桃腺炎の場合はよくうがいして予防したり、抜歯後は歯医者より抗生物質をもらったり、擦り傷・切り傷の場合は化膿しないように適切な処置をしましょう。原因不明の熱と股関節痛の場合は早めに整形外科を受診しましょう。

  5. 定期健診
    人工関節は永久に持つものではありません。15年から20年で約1割の人が入れ換えになるくらいの耐久性と考えてよいと思います。いずれ入れ替え術が必要です。入れ替えが必要となったときは、医者のほうから再手術を勧めます。その際は、痛みは強くなく患者さん自身が手術を希望しない場合が、多くあります。しかし患者さん自身が痛みが強くなったときには人工関節がいたみすぎて手遅れ状態となることがあります。入れ替えの基準は、痛みではなくどのくらい人工関節がいたんでいるかです。つまりはレントゲンを撮ってみないとわからないということです。ということで定期健診が必要なのです。手術後は1年ごとの定期健診を忘れないようにしましょう。

MIS(低侵襲手術)

MIS(低侵襲手術)という方法が、現在よく行われています。傷を小さくして手術侵襲を少なくして復帰を早くしようとする方法です。傷が小さいことや侵襲が少ないことは確かに患者さんにとってよいことです。しかし、行き過ぎると傷が小さいため人工関節が正確にはいらなかったり、骨折したり、血管や皮膚が損傷されたりマイナスの面も出てきます。MISには極端にこだわらないほうがよいと思います。

石井政次 (いしい まさじ)  

昭和31年生まれ
出身地  香川県
最終学歴 昭和57年 山形大学医学部卒業
職  歴 昭和63年4月 済生会山形済生病院入職
現  職 統括診療部長
資  格 日本整形外科学会 専門医
     日本人工関節学会 評議員
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