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健康コラム

第19話 糖尿病(とうにょうびょう)

糖尿病内科 医師  山口  宏

糖尿病は血液中の糖(ブドウ糖)が増えすぎてしまい、いろいろな異常を引き起こす病気です。血液中のブドウ糖の濃度を「血糖値」と呼んでいますので、糖尿病は「血糖値が高くなる病気」と言えます。

インスリンは私たちの体内で血糖値を下げるように働く唯一のホルモンです。糖尿病はインスリンの分泌が悪かったり働きが低下して起こる病気なのです。 糖尿病には自覚症状がほとんどありません。しかし血糖値がかなり高くなると、異常にのどが渇く、尿の量が多い、食べているのに体重が減る、疲れやすい、目がかすむ、などの症状が現れます。

世界的に糖尿病の患者さんが増えています!

日本での平成19年の調査では糖尿病者数は890万人、糖尿病予備軍は1320万人と報告されています。全世界では約2億5000万人と推定されています。今後さらに増加することが予想され、国連は11月14日を「世界糖尿病デー」と定めました。糖尿病の予防・治療・療養を喚起するため、世界各地でさまざまなイベントが開催されます。

糖尿病と診断される基準は?

それでは血糖値がどのくらい高いと糖尿病と診断されるのでしょうか。日本の基準では、 空腹時血糖値126mg/dL以上(正常110mg/dL未満)、または食後の血糖値が200mg/dL以上、ブドウ糖負荷試験での2時間血糖値が200mg/dL以上(正常140mg/dL未満)なら糖尿病と診断されます。また血糖値が正常と糖尿病の間にある場合は境界型(糖尿病予備軍)と判定されます。糖尿病予備軍といっても動脈硬化症の危険度が上がってしまうので、食事療法や運動療法など生活習慣改善を中心とした治療が必要です。 HbA1c(ヘモグロビンエーワンシーまたはグリコヘモグロビン)は過去1~2ヶ月間の平均的な血糖値を表す指標で、糖尿病の診断やコントロール状況を見るのによく使われます。

糖尿病の分類

  1. 1型糖尿病
  2. 2型糖尿病
  3. その他の原因による糖尿病
  4. 妊娠糖尿病 

の4つに分類されます。①1型糖尿病はインスリン分泌が極端に低下した結果起こる糖尿病で、その治療にはインスリン治療が欠かせません。②2型糖尿病は遺伝因子と環境因子が重なっておこる糖尿病で、日本人の糖尿病の95%以上を占めています。③は肝臓病、膵疾患、他のホルモン異常や薬剤によって引き起こされる二次的な糖尿病です。 ④妊娠糖尿病は妊娠中におこる糖尿病で、出産後は正常に戻ることが多いのですが、後に2型糖尿病になりやすいため、注意深い観察が必要です。

糖尿病の合併症

細い血管に起きる神経障害、網膜症、腎症(これらを併せて三大合併症と言います)と、太い血管に起こる動脈硬化症とに分けられます。

1)神経障害

主に足先から起き始める末梢神経障害では、足のしびれや痛み、異 常感覚、こむらがえりなどの症状が出てきます。さらに進むと感覚鈍麻となり糖尿病壊疽の危険が高くなります。自律神経が障害されると、立ちくらみ、排尿困難、勃起不全、便秘・下痢などの症状がでてきます。

2)網膜症

眼底の網膜に出血や白斑が生じ視力低下の原因になります。レーザー 治療で進行を止める治療を行うこともあります。早期発見/悪化予防の ためには定期的な眼科受診が必要です。

3)腎症

糖尿病のため腎臓が障害されると尿タンパクが出てきます。現在は新 規透析導入の原因で最も多いものが糖尿病腎症です。腎不全にならないよう血糖コントロールだけではなく血圧の管理も重要になります。

動脈硬化症

糖尿病があると動脈硬化症の危険度は3倍から4倍に増えます。狭心症や心筋梗塞、脳梗塞、主に足の血管に起きる閉塞性動脈硬化症があります。これらの予防のためには、血糖値のみならず血圧、脂質などのリスクファクターを管理することが重要です。

糖尿病の治療

糖尿病と言っても血糖値が少々高いくらいでは、何の自覚症状もありません。しかし先ほど述べた血管の障害は少しずつ進み始めていて、放っておくと合併症が起きてしまいます。症状がないから大丈夫ではなく、きちんと治療をしていく必要があります。

1)食事療法

最も基本となる治療です。まず適正なカロリーにすることが大切です。個人によって適正なカロリーは異なっており、標準体重×身体活動量で計算します。 標準体重(kg) =身長(m)×身長(m)×22 身体活動量:体重1kgあたり25~35 (kcal) 次に、炭水化物・タンパク質・脂質をバランスよく取り入れることも重要です。当院では栄養士による食事指導も行っておりますのでご相談ください。

2)運動療法

運動によってブドウ糖が消費されて血糖値が下がってくるだけではなく、インスリンの働きが改善、肥満の解消、体力増強、ストレス解消などの効果も期待できます。糖尿病に適した運動は有酸素運動(酸素をたくさん取り込んで脂肪を効果的に燃焼させる運動)です。有酸素運動にはウォーキング・ジョギング・サイクリング・水泳などがあります。しかし、血糖コントロールが非常に悪い場合や、また合併症が進行している場合、心臓病・呼吸器疾患・整形外科疾患を合併している場合など、患者さんの状態によっては制限が必要なこともありますので、運動療法を行う場合は必ず主治医に確認して下さい。

3)薬物療法

糖尿病の治療薬は大きく内服薬とインスリン注射に分けられます。内服薬には①インスリンの分泌を促す薬、②インスリンの働きを改善する薬、③糖の吸収を遅らせる薬があります。また数種類の薬を組み合わせて使用されることもあります。インスリン注射は自分の足りなくなったインスリンを外から注射して補うことにより血糖値を下げる治療です。インスリンは飲んでも胃の中で分解されるだけで全く効き目がなく、現在のところ注射するしかありません。しかし、インスリン注射の針はとても細く短くできているので、注射する時もあまり痛みはありません。 内服薬やインスリンで治療していると、血糖値が必要以上に下がりすぎることがあり、これを「低血糖」と呼んでいます。低血糖時には、冷や汗・手のふるえ・動悸・強い空腹感などの症状がでてきますが、この場合は砂糖やブドウ糖、ジュースなどを飲んで対処します。 血糖コントロールの指標 合併症を防ぐためにも、血糖コントロールを「優」または「良」に近づけることが大切です。

HbA1c;ヘモグロビンエーワンシーまたはグリコヘモグロビン。過去1~2か月間の血糖値の平均を表す指標。

山口  宏  

昭和36年生まれ
出身地  山形県山辺町
最終学歴 山形大学 医学部卒業
職  歴 平成20年 済生会山形済生病院入職
現  職 内科医長
資  格 日本糖尿病学会 糖尿病専門医
     日本内科学会 総合内科専門医
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