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健康コラム

第11話 下肢静脈瘤(かしじょうみゃくりゅう)の最近の治療について

心臓血管外科 廣岡 茂樹   医師

静脈瘤の分類

下肢静脈瘤はもっとも普遍的な健康トラブルの一つで、日本の成人の10~50%にみられるとされています。下肢静脈瘤は、生じる部位、大きさにより、4つに分類されます。

(1)伏在型静脈瘤
 大腿の内側から内踝を走行する大伏在静脈や、膝の背側から外踝を走行する小伏在静脈の本幹およびその主要分枝が拡張したもので、その原因のほとんどは伏在静脈接合部の弁不全が原因になっています。

(2)側枝型静脈瘤
 伏在静脈より末梢の分枝が拡張したもので、孤立してみられることも多く、孤立静脈瘤とも呼ばれています。

(3)網目状静脈瘤
 径2~3mmの皮下の静脈の拡張で、比較的鮮明な青色を呈します。

(4)クモの巣状静脈瘤
 径1mm以下の皮内静脈の拡張で、紫紅色を呈します。

静脈瘤の症状

症状を呈するものは主に(1)の伏在静脈瘤で、痛み、だるさ、重い、夜中に足がつる、などの症状を呈します。 (3)(4)は特に症状を呈することはありませんが、美容的な面から治療を希望される患者さんがおられます。

静脈瘤の治療

1)硬化療法

  静脈瘤内に細い針を刺して、硬化剤(静脈に炎症を起こし、静脈を接着してしまう薬)を注入する方法で、おもに(2)(3)(4)のタイプの静脈瘤が治療の対象になります。また、手術治療後に残ったものや、再発したものもよい適応になります。 従来は硬化剤として、高張食塩水、オレイン酸エタノールアミン、ポリドカノールなどが用いられていましたが、高張食塩水は再発が多いことが判明し、ポリドカノールの保険認可がおりたこともあいまって、全国のほとんどの施設で硬化剤としてはポリドカノールが用いられるようになりました。オレイン酸エタノールアミンは、注射後に圧迫の必要が無く、その接着作用の即効性から一部の先天性の静脈奇形の治療用として用いられています。硬化療法の進歩としては、Form硬化療法といって、硬化剤と非常に小さな空気の泡をまぜて用いる方法が開発されました。気泡を混ぜることにより静脈壁と硬化剤との接触面積が増加し、より少ない量の硬化剤で、より確実な効果が得られるようになりました。

2)手術治療

(1)のタイプの静脈瘤が手術の対象となり、静脈の弁が壊れた伏在静脈の本幹を抜去することを目的として行われ、ストリッピング手術といいます。従来は、大腿部から内踝までの大伏在静脈全長にわたり抜去する方法が行われておりましたが、神経障害などの合併症が多く認められました。現在では神経障害を予防するために、選択的に大腿部のみの伏在静脈(ほとんど、この部分の弁不全が多い)を抜去する方法(選択的ストリッピング手術)や、伏在静脈を内側に反転させながら抜去し、血管の外側の神経などを傷つけないような方法(内翻ストリッピング手術)が行われるようになりました。ストリッピング手術にかわる治療法としては、血管内にカテーテルを挿入し、レーザーやラジオ波により、伏在静脈を処理してしまう血管内治療や、伏在静脈にFoam硬化療法を行う方法(本幹硬化療法)などが開発され治療が行われています。レーザーやラジオによる血管内治療は皮膚の切開が必要なく、穿刺(少し太い針を刺す)だけで治療ができることが最大の長所です。屈曲の強い血管には対応できないことや、分枝再発の問題が解決されておりませんが、今後発展していく治療法であると思います。本幹硬化療法では、大腿部を2cmほど切開し、分枝を処理してからカテーテルを伏在静脈に挿入し、Foam硬化療法を行う方法で、分枝再発の問題はありませんが、本幹再開通の懸念が残ります。

どの治療法も一長一短があり、発展途上の段階にあり、それぞれの施設で得意な治療法を患者さんの要求に応じて行っているのが現状です。今後それぞれの治療法の欠点が克服され、より低侵襲で確実に再発が防げる治療法が生き残って普及していくのではないかと思います。

以上、最近の静脈瘤の治療法の変遷について簡単に述べましたが、山形済生病院では、伏在静脈の本幹に対する処置としては、選択的内翻ストリッピング手術を行い、残存および再発静脈瘤に対してはFoam硬化療法を基本として行っております。静脈瘤は進行性の病気で、放っておけば段々ひどくなるだけで決して改善することはない病気なので、まず一度専門医を受診することをお勧めします。

当院での下肢静脈瘤血管内治療

廣岡 茂樹 医師

昭和35年生まれ
出身地  東京都
最終学歴 山形大学 医学部卒業
職  歴 平成8年 済生会山形済生病院入職
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