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下肢閉塞性動脈硬化症(ASO)の治療

下肢虚血の重症度 フォンテイン 分類(Fontain分類)による治療方針の決定

下肢閉塞性動脈硬化症(ASO)は、下肢虚血による症状の程度により下記の4段階に分類されます。重症度に応じて一般薬物療法や運動療法、血行再建術などが選択されます。

分類の症状についてはこちら

分類治療方法
1度 足の保温やフットケアにて経過観察することが可能です。
しかし、これまでの疫学的研究の結果、下肢症状がない場合でも、ASOに罹患していない方に比較して、ASO患者さんの長期生命予後が悪いことが知られています。この結果はASO患者さんにおける冠動脈疾患や脳血管疾患の合併が多く、重症化しやすいためであります。従って、近年ではASO下肢症状がない場合でも動脈硬化の進行予防のために薬物療法(抗血小板剤など)の施行が推奨されています。
2度 薬物療法(抗血小板剤、血管拡張剤、脂質改善薬など)と運動療法を施行します。
6か月から1年間の加療を継続し、症状の改善(疼痛の改善や歩行距離の延長など)が得られ、日常生活に支障がない場合には、同様の保存療法を継続します。
一方で、症状が改善しない場合や悪化に至り、日常生活に不便を自覚される場合には、下肢血行再建術(バイパス術や血管内治療)の適応となります。手術の詳細に関しては下記に提示します。
3度 フォンテイン3-4度は重症虚血肢であり、放置すると下肢の切断を余儀なくされる重篤な病状です。救肢のためには、適切な下肢の血行再建術と創傷処置、リハビリテーションなど複合的な治療が必須です。
4度

保存療法

生活習慣の改善(危険因子の改善)

ASOは全身性の動脈硬化性疾患のひとつです。動脈硬化は進行性の疾患であるため、下肢血行再建治療後の再発や進行を生じる可能性は高いと考えられます。

さらにASO患者さんは、動脈硬化症に起因する冠動脈疾患(狭心症・心筋梗塞・虚血性心筋症など)や脳血管疾患(脳梗塞や脳出血など)を発症する頻度が高いため、その生命予後は決して良好ではありません。従って、動脈硬化症に関わる危険因子を是正することは、下肢血行障害を予防することのみならず、生命予後の改善にも寄与します。

具体的には、①禁煙、②基礎疾患(糖尿病、脂質代謝異常、高血圧、高尿酸血症、腎機能障害など)のコントロール、③食事・生活習慣の是正(抗酸化物質の摂取:野菜や果物など、ストレスの軽減、運動など)などが挙げられ、いずれも継続したコントロールが必要であると考えられます。

★ ポイント ★
  • 禁煙
  • 基礎疾患(糖尿病、脂質代謝異常、高血圧、高尿酸血症、腎機能障害など)の治療
  • 食事、生活習慣の是正(抗酸化物質の摂取:野菜や果物など、ストレスの軽減、運動など)

いずれも継続したコントロールが必要!

薬物療法

下肢冷感や間歇性跛行(歩行による下肢重苦感の出現)などの症状に対しては、上記のリスクコントロールに加えて、抗血小板剤(血管拡張作用と血小板凝集抑制作用を有する)を内服し、その後の下肢症状の改善の状況を評価します。また、同時に下記の運動療法を実施することにより、治療効果が高まることが報告されています。

6カ月から1年間治療を継続しても症状が満足に改善しない場合や症状が悪化した際には、下記の血行再建術を考慮する必要性があります。

運動療法

下肢血行障害による間歇性跛行症状に対する初期治療のひとつとして監視下運動療法が推奨されます。運動療法による効果としては、腓腹筋(ふくらはぎ)の血流増加や血管内皮機能の改善による血管拡張性の改善、新生血管の増加、筋力・持久力の改善による歩行時間の延長などが挙げられます。

効果的な運動療法の方法として、医師や理学療法士の監視下に行うトレッドミル歩行やトラック歩行が推奨されます。歩行の運動強度としては、下肢間歇性跛行症状を生じ得る程度の強度で歩行し、下肢の疼痛が中等度に達したら安静にすることを繰り返します。このような運動を1回30分から60分間行います。運動療法の効果判定まで、基本的に1週間に3回、3カ月間の継続が必要です。

3カ月間、適切な運動療法ならびに薬物療法による保存的治療を継続しても症状が改善しない場合に、下記の血行再建術を考慮します。

外科的治療

①外科的血行再建

下肢血行障害対する外科治療として一般的に施行される手術は、血管の閉塞部位を迂回して新たな血管(代用血管)を移植するバイパス手術です。手術に用いる代用血管には人工血管(ポリエステル、ePTFEなど)と自家代用血管(自家静脈など)があります。
動脈の閉塞部位や長さなどにより、いずれの代用血管を用いるかを判断します。主に、腹部大動脈から大腿部の太い動脈の閉塞に対しては、人工血管を用いることが多いですが、下腿や足関節周囲の細い動脈の閉塞に対する血行再建に対しては、自家静脈(下肢や上肢)を移植する必要があります。

また、バイパス術を施行する際の経路により、解剖学的バイパス術と非解剖学的バイパス術に分類することができます。本来の動脈と同じ走行になるように代用血管でバイパスする方法を解剖学的バイパスと呼びます。一方で本来の動脈の走行とは異なる経路でバイパスする血行再建の方法を非解剖学的バイパス術と呼びます。一般的に、解剖学的バイパスの方が代用血管の長期開存生成が良いとされます。一方で、非解剖学的バイパス手術は体表面の操作にてバイパスが可能であり、手術の低侵襲性において優位であると考えられます。従って、術式の選択はそれぞれの患者さんの動脈の閉塞状況や併存疾患(心疾患、脳血管疾患など)により慎重に決める必要があります。

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②血管内治療

下肢ASOに対する血行再建の方法として、カテーテルを用いた血管内治療があります。
一般的には、骨盤領域(腸骨動脈)や大腿部病変(浅大腿動脈)における高度狭窄や短区域閉塞病変に対して、経皮的血管形成術がよい適応となります。
経皮的に動脈を穿刺してその内腔にカテーテルを挿入し、狭窄あるいは閉塞した部分を血管拡張用のバルーンで開大します。多くの場合、病変部の再閉塞を回避するために同部位にステントを留置します。

近年、各種デバイス(バルーンやカテーテル、ステントやステントグラフトなど)の改善や技術の向上により、さらに長区域の動脈閉塞病変や血管径の細い下腿領域へのカテーテル治療も行われるようになってきました。
また、病変部位が多岐にわたる広範囲の動脈閉塞疾患においては、手術侵襲の低減や代用血管の節約を目的として、血管内治療と代用血管を用いたハイブリット手術を実施することも多くなっています。

足潰瘍や壊疽の症例に対しては、下腿領域の細い動脈に対して血管内治療が施行される場合もあります。下腿の3本の動脈はその血管径が細く、閉塞や高度狭窄病変が多発している事が多いため、血管内治療のみでは、創傷治癒に十分な血流を供給できない場合もあります。

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③創傷処置

重症虚血肢(足潰瘍や壊疽)の治療においては、確実な血行再建が必須条件となります。一方でバイパス手術や血管内治療により下肢の血流が改善しても、適切な創傷処置を施行しなければ創部を治癒に導くことはできません。合わせて適切な栄養管理や併存疾患の治療(糖尿病など)、リハビリテーションを実施することが非常に重要です。血行再建後の創傷治癒までの経過は以下の通りです。

まず血行再建後に正常組織部分と壊死組織の境界を確認し適切な範囲での壊死組織の除去(デブリードマン)を施行します。その後は洗浄や消毒などによる感染コントロールと、陰圧閉鎖療法などによる創底部の清浄化を継続して行います。創部が清浄化されると、良好な肉芽組織が増生してきます。最終的には創縁から上皮化して創が治癒に至ります。一方で、壊死による組織欠損が広範囲におよぶ場合には、遊離皮弁や筋皮弁などの特殊な治療が必要になります。

下肢血行再建(バイパス術)を施行した症例

診断:ASO(重度石灰化症例)による重症虚血症例
手術:自家静脈グラフトによる下腿バイパス術

画像所見(術前1)

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画像所見(術前2)

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画像所見(術前3)

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術後経過

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病気の概要、好発部位、重症度分類 下肢閉塞性動脈硬化症(ASO)の診断