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健康コラム

#1 「股関節(こかんせつ)の話」

 コロナ禍の折、世界中の話題はコロナ感染に関わるものばかりですが、他の病気がなくなったわけではなく、コロナウイルスの陰で苦しんでいる人もたくさんおられます。グラフは人工股関節全置換術の手術件数の推移を示したものですが、経年的に増加を示しており、10年前と比べると2倍近くになっています。これは日本人の高齢化が影響しているものと思われますが、股関節疾患が一定数存在することを示すものです。
 今回の健康コラムでは子どもからお年寄りまで幅広く関わる股関節の病気についてお話しします。股関節は体幹と下肢をつなぐ人体最大の関節で、人が歩行する時には股関節には体重のおよそ3倍の力が加わるとされます。股関節疾患は年代毎に好発する病気が異なっていますが、今回は成人の股関節疾患についてお話ししたいと思います。

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股関節の病気(成人)

成人の股関節疾患として、知っておいて頂きたい病気は3つあります。1つは変形性股関節症で、関節軟骨が磨り減ってなくなってしまう病気です。変形性股関節症はさまざまな股関節疾患の最終的な状態でもあり、骨折や脱臼などの外傷後にも生じることがあります 日本人では寛骨臼形成不全が変形性股関節症の原因として最も多く、8割を占めるとされています。寛骨臼形成不全は小児期の寛骨臼が浅い状態を指しますが、成長が終了した時点で浅い状態が改善していなければ将来変形性股関節症になる可能性が高いと考えられています。程度が軽いと当初は症状がないか軽微であることも多いので、痛くなるまで患者さん本人が気付いていない場合もあります。軟骨は経時的に摩耗し、回復することが期待できないため、変形性股関節症は基本的には「だんだんと悪くなる病気」です。寛骨臼形成不全が原因で、年齢が若く、軟骨が十分に残っている場合には寛骨臼回転骨切りなど自分の関節を温存する治療が適応となりますが、50歳以上で軟骨変性が進行していれば、人工股関節全置換術の適応となることが多いのが現状です。
 2つ目の疾患は大腿骨頭壊死症です。原因はわかっていませんが、大腿骨頭の一部が壊死してしまう病気です。壊死した骨は強度を失うために、体重の負荷に耐えられなくなると微小骨折を生じます。微小骨折に伴い骨頭の圧潰が進行すると、疼痛が生じ、最終的には変形性股関節症へ移行します。若年者で骨頭に健常な部分が残っている場合には健常部を体重のかかる位置に移動させる骨切り術が選択されますが、健常域が少ない場合にはやはり人工関節以外では救済できない場合もあります。ステロイド(副腎皮質ホルモン)という薬剤との関連が指摘されており、多量飲酒はリスク因子の一つとされていますので該当する方は知っておく必要があります。
 3つ目の疾患は大腿寛骨臼インピンジメント症候群(Femoro-Acetabular impingement: FAI)と呼ばれる疾患で、近年スポーツ愛好者の股関節痛の原因として注目されています。大腿骨の一部と寛骨臼が衝突することで関節唇や関節軟骨を傷めてしまう病気で、形態的に骨の張り出しが大きい人でアイスホッケーやサッカーの選手に多いといわれています。典型的には股関節を深く曲げる動作や内向きに捻る動作で痛みがでるため、スポーツ活動などに支障がでます。単純X線写真だけで診断が難しいこともあり、正しく診断がつくまでに時間がかかることもあるので、スポーツ愛好者で長引く股関節痛がある人は専門医に診て頂くといいでしょう。
 股関節疾患はこどもから高齢者まで幅広く存在しますが、どの世代においても歩行困難につながる重要な病気ばかりです。膝や足首に比べると深部にあるため診断が難しく、痛みの局在も臀部、鼠径部、大腿部、膝周囲と広範囲にわたるため、腰や膝の疾患との鑑別を要し、しばしば難渋します。歩き方がおかしい、左右の足の長さが違う、股関節や膝が痛いなどの症状がある場合には一度整形外科を受診しましょう。

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治療について

 本日お話しした股関節疾患は適切な治療を行わずに悪化した場合、最終的に変形性股関節症となり、耐えがたい痛みや歩行能力を低下させます。装具療法やリハビリなどの保存療法でも改善しない場合や見込めない場合、手術が必要になります。若年者では関節機能を改善させ、変形性股関節症の進行を予防するための骨切り術が第一選択になります。骨切り術では対応が難しい場合や年齢が50歳前後以降では人工股関節全置換術が選択されることが多くなっています。人工股関節全置換術は機能を失った股関節を人工関節に置き換えることで疼痛を改善し,関節機能を回復させる手術で、製品と技術的な進歩を受けて成績がさらに向上し、年々手術件数は増えています。変形性股関節症が原因で歩くのが困難になった高齢者でも人工股関節全置換術を受けることで痛みなく歩けるようになることが期待できます。

当院の股関節診療について

 当院は1980年の整形外科創設以来、股関節診療に注力してきました。股関節疾患は小児から成人まで幅広く、患者の年代毎に適切な治療が必要となりますが、当院では赤ちゃんからお年寄りまで全ての年代の患者様に合った治療を提供できる体制を整えております。股関節専門の常勤医が3名在籍しており、年間およそ400件の人工股関節全置換術に加え、技術的に難しいとされる再置換術(古くなった人工関節を新しい人工関節に交換する手術)も年間20件ほど行っております。小児や若年の患者様には患者様自身の関節を温存し、関節の適合性を改善させる骨切り術を行っております。また、人工関節全置換術では正確なインプラントの設置が成績に大きく影響するとされますが、当院では高度な変形の患者様を対象に2018年からナビゲーションシステムを導入しています。ナビゲーションはCTで計画した詳細な術前計画をリアルタイムで正確に再現することで、手術を支援し、精度の高いインプラントの設置や骨切りを可能にします。当院では幅広い年代の股関節疾患について手術だけでなく手術以外についても診断から治療まで対応いたします。股関節の症状でお困りの方はどうぞかかりつけ医の先生とご相談の上、当院へお越し下さい。

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佐々木 幹(ささき かん)(H7年医師免許・医学博士)